。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「はい。どぉぞ」
マネージャーが扉を開け、扉の向こう側で男の声が聞こえた。
「お忙しいところ失礼します。
十朱 一結さん、いらっしゃいますか?」
聞き覚えのない重低音は丁寧な口調だった。
ネズミ―――……の声………?
想像したより随分―――若い声だった。
低く響く声に重みがあって、でもどこか甘さを含ませた……声だけ聞くと随分セクシーな声に聞こえた。
けれどハキハキとした喋り方にそつがなく隙もない。
「youさんにお客さんですかね」とメイクさん(♀)が鏡越しにあたしに問いかける。
「さぁ……」
あたしは動揺を必死に隠して何とか答える。
「ええ、youはいますけど、どちらさま?」
マネージャーが警戒したように声のトーンを落とし扉の向こうの誰かに答え
「失礼、私はこうゆう者です」
名刺か何かをマネージャーに見せたのだろう。
ちょっとの沈黙があって
「少しお話を伺いたいのですが」
と、またも男の声。
「ま…待ってください!うちのyouが何かしたんですか!」
と今度はマネージャーの酷く慌てる声が聞こえてきた。
さっきの警戒するものではなく明らかに動揺しているような…
一体、誰が来たって言うんだろう。
ネズミは一体何者なのだろう。
マネージャーの制止も振り切り、男が部屋に入ってくる。
女優の控え室に強引に入るとか随分無粋な男だ、と常識的な部分で嫌悪感を抱いたけれど
それよりも不安の方がまさった。
あたしはぎゅっとテディとケータイを握り締め、
ドキン、ドキン!と心臓が激しく鳴る。
コツ……
上質な革靴が、それに見合う上品な音を立てて響いた。
フェラガモの黒い靴の先が見えて
「十朱 一結
さん?」
背の高い男が入室してきて、あたしは目を開いた。