。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
虎間はお嬢に何か声を掛けるわけでもなく、すぐに病室を後にした。
会長がいらっしゃるから遠慮したのだろう。
会長もお嬢がこんな様子じゃ喧嘩なんてしないだろうが、今はその虎間の遠慮が助かる。
キョウスケも一緒についてきて、虎間が病室を出るときにぺこりと俺に一礼していった。
「キョウスケ、ちょっといいか」
キョウスケの後を追いかけると
「分かりました」
キョウスケは深く聞かずに素直に頷いた。
虎間は不審そうにしていたが、俺はその視線を無視してキョウスケをひと気のない階段脇へと導いた。
革張りの長椅子が設置されていて、そこに腰掛ける。
「何ですか?」
キョウスケは直球に聞いてきて、でも座る気配を見せない。
どうやら話を早く切り上げるつもりらしい。
「ああ…イチのことでちょっと…な」
俺が言葉を濁すと
「一結?」
キョウスケはここではじめてちょっと興味を持ったように俺の隣に腰掛けてきた。
「お嬢が倒れたという報せを受け取る直前、私はイチと電話をしてたんだ」
「一結と電話…?」
キョウスケは珍しいものを見るような目つきで目を細め
まぁ実際珍しいことかもな。
「大した内容じゃなかった。本当にくだらない世間話だったんだが、衛からキャッチが入ってきて、
次にイチに電話を繋いだとき、あいつ不機嫌で」
「何が言いたいんですか」
キョウスケが間をあけず聞いてきて
「……お前に頼むのはなんだが、イチのフォローを頼む」
俺が言い出すと、キョウスケは目をまばたいた。