。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「お嬢、俺を見て!」
キョウスケの手のひらがあたしの頬をそっと撫で、あたしの頬に流れる何かをそっと拭った。
あたしは目だけを動かしキョウスケを見ると、キョウスケは眉を寄せて、あたしを見る目は黒くてそこには何も映ってなかった。
「そう、そうです。俺を見て。
大丈夫。あなたを壊そうとする男はもういない。大丈夫」
大丈夫、キョウスケは何度も繰り返した。
まるで呪文のように。
「大丈夫、大丈夫です」
キョウスケはあたしの頭をゆっくりと抱き寄せると、そっと撫でた。
分かっている。
本当はもう、あたしを苦しめるあの男はいない。
けれど
苦い過去が、ときどき…ふとした瞬間に、
コーヒーをろ過するように、フィルターを通って
嫌な記憶だけ抽出したように
フラッシュバックして鮮やか過ぎるほどに蘇るんだ。
――――
――
どれぐらいそうしていただろう。
一時間…?もしかしたら一分かもしれない。
すべての感覚が狂っていて、あたしを抱きしめる人が誰なのかも分からなくなったとき
「嵐が来る」
さっきは〝呪文”みたいに聞こえた声が、今度は呪詛のように聞こえた。
「―――嵐…?」
遠くで戒の声も聞こえた。
「ええ。
来る。
嵐が
来る。
一結が予想した通りの」