。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。




「今はまだ―――あなたの方も万全な体調ではなさそうですね」


ドクターはそう言って白衣のポケットから何かを取り出そうとした。


拳銃かと思って身構えたが出てきたのは小さなチョコレートの包み。


「これを食べれば元気になりますよ♪


イチゴ味です、あなたのお好きな。ふふっ」


そう言われて


コロン


手のひらの中にその包みが置かれる。


「これを食べて、ぐっすり眠ったら明日はすっきりしてるはず」


そっと手を握られ、ドクターはチョコレートの包みを私に握らせた。


温かい手のひらだった―――


大狼と同じ……


私はその場でチョコレートの包みを開いて口に入れると、ふわりと柔らかく甘い香りが口いっぱいに広がった。


「おいしい……」


「それは良かった♪今度はCherry味を用意しておきます。


さ、病室へ戻りましょう」


ドクターに促され、私は今度こそ大人しく従った。


少なくともこいつは私に何かをしてくると言う気配はなかったから―――



促されてドクターと二人廊下を歩きながら、


私は何故だか急激に安心した。


今までは敵だらけだったのに―――こいつだけは私に歯向かってこなかった。


だからだろうか。




気を許せる感じがして



私はそっと近くにあるドクターの手を握った。



ドクターは一瞬だけびっくりしたように目をまばたいたが、やがて小さく微笑むとそっと私の手を握り返してくれた。





「眠れなかったら私が子守歌を歌ってさしあげましょう♪」



「要らない」




手を繋ぎながら―――私は廊下を歩いた。


歩きながら―――大狼の手もこんな風に温かかったのだろうか。


黄龍の手も―――






ついさっき触れたばかりなのに、私は二人のぬくもりを忘れそうになっていて



そのぬくもりを忘れたくなくて――




今、一番近くに居るドクターの手を必死に握り返した。










でも一番









あの戒と言う男に抱きしめられたあの感触が―――






あの熱い何かを









忘れられない。



















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