。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。



俺は愛しい女からそっと手を離すと、朔羅の寝顔を見つめ見下ろし―――


もう一度だけ名残惜しそうに頬を撫で、やがて立ち上がった。


「取引って?」


朔羅にそっと背を向け、声を低めながら俺は病室の出入り口に向かった。


俺は悪魔に魂を売ろうとしているのかもしれない。


この判断が正しいのか正しくないのかは―――イチのもたらす情報次第。


パタン…


扉を閉める音がしんと静まり返った病棟にやけに大きく聞こえた。


不思議なもので


たった数時間前まであんなに騒がしかった病棟が、今はまるで何事もなかったように静寂に包まれている。


その不気味な静けさが逆に怖かった。


ドクターが何か説明したのかもしれないが、この静けさは異常だ。


そう言えば、朔羅に何かあったときまっさきに龍崎 琢磨が動くはずなのにあいつの姿も見なかった。龍崎 琢磨の側近である鴇田もだ。


二人してなりを潜めているのも怖い。


分からないことだらけでどうにかなりそうだった。


胃の痛みが今は頭痛に変わってズキズキと眉間を刺激する。


俺は目を閉じて扉に背を預けると


「はよ取引ってのを言うてや」


と相手を急かした。


『そっちが先よ』


当然ながらイチが言ってきて、俺は深いため息を吐いた。


俺はかくかくしかじか朔羅が豹変したことを話し聞かせた。イチに話しても大したことじゃないと判断したから。


どーせスネークと繋がってる女だから知ってるだろうと思ったが



『本当に…!』



電話の向こう側でイチが息を飲む気配があって、俺は目を開いた。


思わずケータイを握る手に力が籠った。







この女







ほんまに知らへんのか。













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