。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
『あんたたちヤクザ間で通じる暗号…隠語みたいなもの?』
イチに聞かれ
「いや?知らない」
俺はそっけなく答えた。
少し移動すると、外に通じる窓ガラスが現れる。俺はそのガラスに自分の姿を映し出した。
同じように耳にケータイを当て向こう側を探るように睨んでいる俺自身と視線が合い
鏡―――ねぇ……
心の中で復唱した。
スネークじゃなけりゃ犯人は白へびのヤツに違いないが、それが“鏡”とどう関係があるのか全く分からない。
『情報はそれだけよ。これ以上は話せない。
あたしの命が危ないもの』
「分かったワ。おおきに。でも―――何で危険だと分かっていて、スネークを売るようなこと……俺に…?」
ぎゅっとケータイを握って窓の外の自分を睨んでいると
少しの間があった。
イチはだんまりを決め込むかと思って俺はケータイを下ろそうとしたが
『何が起こってるのか分からなかったから。
それと―――
あたしが“あの男”の本当の正体を
見失いそうになってるから』
イチの答えに俺は目を細めた。
本当の正体やて?
そんなん今さら言わんでも分かってるやろ。あいつは情の欠片もない殺し屋だ。
心の中で悪態をつくも、
イチの言葉の裏にはもっともっと深い何かが―――隠されているように思えた。
これが響輔なら見抜けるだろうが、生憎だが俺は見抜けるほどこの女と親しくない。
「これで取引は終了や。ほな、明日朔羅が目覚め次第、朝イチで響輔を迎えに行くからな。
指一本触れるなよ」
俺は念押しして通話を切ろうとした。
『ねえちょっと…!』
イチが何か言おうとしていた
と、同時だった。
ガラッ
静寂に包まれた廊下の中―――引き戸を開く音だけが聞こえてきて俺は反射的に音のした方が見た。
病室の引き戸に手をついて立っていたのは
「戒―――………?」
俺の愛しい女
朔羅は
寝ぼけたように大きな目をぱちぱちさせながら俺の元へ歩いてきた。