。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
私は裸身にローブを羽織ると、開きっぱなしになっていたノートPCに指を滑らせた。
無防備な状態だ、と?
大丈夫、ご心配なく。このPCに入れるのはたった一人、私だけ。
どんなに優秀なハッカーが居ようとこの要塞のような鉄壁のファイヤーウォール(コンピュータネットワークの防火壁)を破ることはできないしプロトコルは一時間の間隔で変化もする。
チャット画面が開いて
T:>>仕事を依頼したい
たった一文を見て私は目を細めた。
『T』とは長年の付き合いだ。とは言っても会ったことはほんの数回。
〝T”は私の返事も聞かずして
T:>>AM3:00
東京クレセントホテルのスカイラウンジにて。赤いドレスの女が目印。
丸腰で来るのが条件。
と短く、かつ分かりやす~く指示してきた。
相変わらずだ。
有無を言わさないこの指示に苛立ちは覚えないし、反論したこともない。Tは昔からこうなのだ。
まぁこちらとしてもおいしい仕事をいただいているわけだから文句も言えない、と言うのが正しいところだが。
私はノートPCを片付け衣服を着ると万札を数枚、テーブルに置いて
ベッドで眠る女を見ろした。
もう会うこともないだろうし、たとえすれ違ったとしても向こうは〝私”だとは気づかないだろう。
次に会ったとき私は私じゃなく別人に扮している。
「楽しませてくれてありがとう。さよなら」
私は心地よさそうに眠る女の頬にキスを落とすと、その部屋をあとにした。