。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「丸腰で来る約束を守ってくれたようね」
「私がいつ約束を破ったことが?」
私の返答に十朱 志紀子はうっすら笑った。
十朱 志紀子―――は歳は私の少し上だろうが、歳相応の美しさを湛えた女だった。
美人だがいかにも気が強そうな―――釣り目が印象的だ。いつもきゅっと引き結んだ唇は赤い口紅が乗っていて冷たい印象も受ける。
まぁ四神の一角、朱雀を統治する女だ。波大抵の女じゃその役は務まらないだろう。
前会長の十朱の姪で、一結の母親さゆりとは従姉妹に当たる。
「ご無沙汰してます」
私がわざと丁寧な挨拶をすると十朱 志紀子はその赤い唇をゆっくりと動かした。
「無駄な挨拶はいらないわ。どうぞ掛けて」
十朱 志紀子は対になっている椅子を手で指し示し、私は言われた通りその椅子に腰掛けた。
出入り口には二人の男が腕を組み仁王立ちになっていて、私は肩をすくめる。
相変わらず―――厳重だ。
無理もないか。ここは青龍の本拠地―――東京だ。
文字通り挨拶抜き、の、大した説明も抜き―――で、
ズイとウィスキーが入ったグラスを勧められる。私は勧められるままグラスを受け取りそれを口にした。
「青龍会と白虎会が同盟を結ぶって噂が流れてるの。
噂の真意は本当かしら」
その質問にはどう答えるか一瞬悩んだ。
私がその噂を耳にしていない筈などない。
「私を興信所の職員か何かと勘違いしているようだが?」
ゆっくりとグラスを傾けると、十朱 志紀子も同じようにグラスを傾けた。
「情報代としていくらか払うわ」
カラン
グラスの中で氷のなる空虚な音が聞こえたと思ったら、十朱 志紀子のグラスはいつの間にか空だった。
私はウィスキーのボトルを傾けると十朱 志紀子のグラスに注ぎ入れようとしたが、
志紀子はそれを阻んだ。
「回りくどい話は抜きにしましょう。
今、勢いを増している我々にとって青龍と白虎に手を組まれちゃ困るのよ―――
最終手段として我々は―――青龍と白虎の幹部たちを
暗殺することを考えている」