。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
なるほど
その暗殺役に私が命じられたわけだ。
影の身でありながら随分と大役を仕って慄(オノノ)いている―――なんてことはない。
ある程度予想ができていたことだからね。
そしてその後に言う言葉もシミュレーションしていた。
「断る」
「何故?」
十朱 志紀子は間を置かず―――…一旦は断ったものの自らグラスにウィスキーを注ぎ入れながら目を上げて聞いてくる。
「興味がない」
私が肩をすくめると
「相変わらず面白い男ね。でも今回の仕事を果たしてくれたら、今までの倍、いいえ三倍は出すわ。
破格の金額よ?」
「確かに破格だな。けれど三倍だったらおたくが破産するんじゃないのかい?」
「あの青龍の小賢しいクソガキの首の代金としては安いぐらいよ。
黄龍を葬ってちょうだい」
トン
十朱 志紀子はやや乱暴ともいえる仕草でグラスをテーブルに置き、今度は私が目を上げた。
十朱 志紀子からすると龍崎 琢磨も―――『クソガキ』呼ばわりだ。それが何だか笑えてきた。
青龍、白虎云々よりも…個人的に龍崎 琢磨を忌み嫌っているように見受けた。
が、それは口に出さなかった。
彼女が龍崎 琢磨を個人的に嫌いでも、それが私にとって何の意味も持たないからだ。
「断る」
もう一度
同じようにグラスを傾けながら呟くと、
「あなたには選択の余地はないわ」
十朱 志紀子はウィスキーグラスの中の氷と同じ温度の微笑を浮かべた。