桜縁
「………おい、お前 顔を上げろ。」
「?」
荷物を確認していた兵士の一人が、史朗に声をかけていた。
史朗は言われた通りに、顔を上げる。
「……こいつは?」
「商団の護衛をしております。」
商団の責任者が答える。商団に護衛をつけていても、さして問題はないはずだ。
「………お前は今から、商団の護衛ではなく、この軍で働け。」
「え……?!」
「!」
「連れて行け。」
兵士達が史朗を取り押さえて、連れて行こうとする。
責任者が慌てて兵士に駆け寄る。
「こ、困ります…!商団の護衛がいなくなっては、誰が商団を守ってくれるのですか!?」
「うるさい!!」
いきなり、兵士が責任者を殴り飛ばし、刀を責任者の首元に突き付ける。
「!」
「な、何をなさるのですか……!?」
突然のことで怯える責任者と商団の者達。
だが、兵士達はそんなことには、目もくれずにさらに、責任者に刀を突き付ける。少しでも動けば、刀の餌食となってしまう。
「黙れ!我ら薩摩兵士に盾突くとはいい度胸だ。逆らうのならば、その首を跳ねるぞ!?」
「!」
これ以上のことを、商団の者達は言うことが出来ない。このままでは、史朗は薩摩兵士となり、長州の敵となってしまう。
「連れて行け!」
「お待ち下さい!!」
「……月!」
月が兵士達の前に進み出る。
「兄をお返し下さい!」
「月!やめろ……!」
その様子を見ていた兵士の目が変わる。
「商団の兄弟か……。面白い……。こいつらを全員引っ立てろ!!」
「!?」
兵士の指示で他の兵士達が、月を含め商団の者達を引っ立てて行く。
商団の者達は訳も分からず、ただ怯え悲鳴を上げながら、連れて行かれる。
「な、なんて言うことを……!離して!離して……!!」
「月!月!!」
「兄さん!史朗兄さん!!」
二人は引っ立てられて行き、商団の人達は牢屋へと繋がれてしまい、二人はこの隊を預かる隊長の元に引きずり出されていた。
「!」
乱暴に地面に叩き付けられる。
すでに史朗は自由を奪われ、身動きが取れないようにされていた。
「………この者達です。」
兵士の声が聞こえ、こちらに足音が近づいてくる。
月はゆっくりと身を起こし、その者を見据える。
「……ふん、ただの小娘じゃないか。」