桜縁
「……とにかく、あんな言い方は酷いと思います。せっかく勇気を出して告白して言ったんだから、せめてもう少し優しい言い方をして下さい。」
「僕は正直に自分の気持ちを言っただけだよ?君にそこまで言われるなんて少し幻滅した。」
「沖田さん!!」
「頑張って告白したら想いが遂げられるの?そしたら月ちゃんは桂さんともう夫婦だね。」
「………!」
たまらずに手を挙げようとしたが、アッサリと掴まれてしまう。
振り払おうとするが、力強い手に掴まれて払うことができない。
「僕がどんな想いでいたかなんて月ちゃんには分からないでしょ?」
「!!」
摘まれていた手首を強い力でぐいっと引っ張られ、近くの壁に押し付けられる。
「あっ!」
あがらおうとするが、びくともしない。
逃げ場なんてない。
沖田は怖い顔をして月を見ていた。
月の背にヒヤリとした壁の感触が覆い、両手首は壁に押さえ付けられ、壁と沖田に挟まれていた。
今更ながらに大きな手に見上げるほどの背丈。
押せども絶対に坑うことはできない男の力。
月の目の前にいるのは、いつも笑いあっている沖田ではなく、一人の男として女をみすえる沖田であった。
「どう?少しは分かった?僕もいつまでも子供じゃない。告白してきた相手が好きでもない相手なら、さっきみたいに断るしかない。僕は生涯を遂げる一人の女しか好きにはならない。」
真剣に見つめられる視線から逸らすことが出来ず、まるで金縛りにでもあったかのように微動だにできない。
「酷い酷いって言うけど、君も充分酷いよ。」
「沖田…さん?」
沖田は一笑に付したかと思う間もなく、その顔が間近かに迫る。
目を閉じてと囁かれるように言われる。
言われるがままに閉じると、唇に柔らかく温かい感触がした。
ーー…ザァっと秋の風が二人の間を翔けていった。
そっと目を開くと、それは月の唇に優しく押し当てられた沖田の唇だった。
どれほどの時間そうしていたのだろう。
やがて沖田は静かに、月から唇を離した。
真剣な表情をした、男の顔だった。
沖田は意地悪な笑みを口元に浮かべる。
「いい加減に気づいてよね。」
そっと月の耳元で囁くと、手が解放され、沖田はふいっと踵を返して闇の中へ消えて行った。