桜縁
第五章
その後、美月は沖田にフラれたショックで一晩中泣きつづけ、誰一人として側に寄せつけなかった。
ようやく泣き止んだのは明け方近くだった。
彼女は魂が抜け落ちたような顔をして、一人ひっそりと屯所を出て行った。
美月が心配だった月は、それに気づき彼女の後を追いかけた。
いったいこんなに朝早くに何処へ行くつもりなのだろうか…。
まだ、誰もいない朝霧が立ち込める道を歩いて行く。
辿り着いた先は川原だった。
そこは静かで川が流れる音しか聞こえない。
そこであることに気づき、身体がガタガタと小刻みに奮えだす。
美月は誰もいないことを確認し、柳木の木に自分の帯紐をくくりつけた。
そしてゆっくりとわっかになった紐に、首を入れようとする。
「ダメーーーーーっっ!!」
月は慌てて飛び出し、美月を突き飛ばした。川原へ転がり落ちる。
「み、美月さん!」
月は急いで起き上がり、美月に駆け寄る。
「月ちゃん…?」
そこでようやく美月は月に付けられていたのだと理解する。
「まさか、つけられていたなんて、分からなかったわ。」
「なんで、あんなことをしようとしたんですか!?死んだらダメです!!」
「そんなことを言われても、もう私は生きていたくないわ。ずっとあそこへ行く前から想い続けてきた人から、あんなふうに言われるなんて……、辛くて耐えられない…!」
美月の目からポタポタと涙がこぼれ落ちる。
そこでようやく気がつく。
美月は知り合いが新撰組から助けられたと言って、小姓として入って来たのだ。
だが、それから追うように沖田への恋心を見せるようになった。助けられた人は知り合いではなく美月本人であって、助けたのはおそらく沖田で間違いないだろう。
そんなにも想いを募らせ、頑張ってきたのだ。
今更ながらに昨日の出来事が頭に過ぎり、胸がチクリと痛む。
「…それでも、死んだらダメです。死んだらこの先に待っているかもしれない事にも辿りつけなくなります。」
それだけを言うと、美月は泣き崩れた。泣き叫ぶ美月を月は優しく抱きしめた。
今はこうするしかない。
せめてもの慰めになればと思った。
美月はすがるようにして、泣きつづけた。
それからしばらくして、美月は小姓を辞め新撰組を出て行くこととなった。