桜縁
あの時の行為が慰めとなったか分からないが、少なくとも以前の彼女らしい姿になったとは思う。
部屋の文机には、月宛ての短い手紙と、美月が一番大切にしていた簪が置いてあった。
まるで、叶わなかった自分の想いを月に托すように……。
月はそれを懐へと閉まった。
数日後、朝食の仕度をすませ、皆と一緒にご飯を食べる。
今まで二人でやっていた仕事を一人でこなす月。目の前の開いた席を見た。今にもそこに座っていた美月がにこりと笑いかけてくれそうな気がした。
そんな月を心配したのか、沖田がひょいと月の顔を覗き込んできた。
「きゃあっ!」
驚いて小さな悲鳴を上げる。
「な、なんですか?!」
「さっきから上の空で、全然ご飯食べてないみたいだけど?」
月のお膳に視線を向ける沖田。
「そういえばそうだな。何処か具合が悪いのか月?」
心配そうに尋ねてくる原田。皆も心配そうに様子を伺っていた。
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけですから。」
「そうだよな。今まで二人でいたのが、急に一人ぼっちになっちゃったんだもんな。そりゃあ、考えちまうよな……。」
「近藤さん、別の奴とかもう入れないのかよ?このままじゃあ月が可哀相だよ。」
「ああ…そうだ…な。」
「あ、私は別に一人でも大丈夫ですよ。」
なんでだろう…。近藤の様子がおかしい。いつもなら、活気があるのに、少し沈んでいるように見える。
近藤だけじゃない。土方も斎藤も沖田も…、少しだけ雰囲気が違う。
まさか……!
嫌な予感がし、沖田の方を見ると、沖田は目を細めて笑う。
ああ、これは……。
また一つ任務が成功してしまったらしい。新撰組のためとはいえ、やはり仲間だった者達が消えていくのは何処か辛いものがあった。
「月。」
「はい。」
名前を呼ばれ顔を上げる土方がこちらを見ていた。
「後ででいい。俺の部屋に来い。」
「はい。」
それだけを言うと土方は引き上げて行った。
「雲行きが嫌になって来たな…。」
お茶をすすっていた原田がポツリと呟く。
「新見をやったのは、一君でしょ?」
「ああ。」
「次は芹沢さんの番だな…。」
辺りが重苦しい空気に閉ざされる。
芹沢についていたほとんどの部下達が、近藤側に自ら寝帰り、今や八木邸の方に身を置いている。