桜縁




だから、いつも月はお留守番をさせられていたのだ。


「密偵だ。」


「え?」


「飲み屋を練り歩いている芹沢の動向を探って来い。あれだけの悪評を列なってるんだ。どっかで尻尾を出してるに違いねぇ。それを掴んで来い。」


「でも、わざわざ私を出す理由がありますか?」


密偵だけなら、監察型である山崎、島田、そして幹部の斎藤だけで充分である。


わざわざ場慣れをしていない女の月を出す必要などないはずだ。


「今回の任務は島原とか有名な遊郭が出揃っている花街だ。そんなとこに客でもねぇ男が行くわけには行かねぇからな。お前は顔も割れていないし、女共から情報を聞き出すにはうってつけだ。」


「つまり、それは……。」


「斎藤の女になって、芹沢の動向を探って来い。」


「!」


「外には島田や山崎もいる。何かあったら連絡しろ。それと……おい!平助。例の物を出して来い。」


土方が廊下の方にに声をかけると、不満そうな顔をした平助が入って来た。手には綺麗な女の着物一式が用意されていた。


「これを着ていけ。これなら、花街に行って歩いても、浮くことはないだろう。」


目の前に差し出された綺麗に誂えられた着物。


きっと、前から誂えていた物なのだろう。


任務のためとはいえ、こんな綺麗な着物を着れるとは嬉しいものである。


「……ったく、なんで月と一緒に行くのが一君なんだよ…。」


ブツブツと不服を漏らす平助。


「お前が行ったら、芹沢に気づかれちまうだろうが!」


「うわっ!ひっでぇー!俺だってこれくらいの任務ぐらいならやれるよ!!」


「うるせー!とにかく、今回の任務は斎藤が適任だ。つべこべ言ってねぇで、てめぇの仕事でもしてろ。」


「ちぇーー…。」


仕方なさそうに頭を掻く平助。


確かに、いつも騒がしい平助や新撰組の剣客として腕の立つ沖田では、殺気などであっという間看板されてしまいそうだ。


それに対して斎藤は、いつも気配を消していて忍びらしい忍びの姿をしていて、目立つこともない。


原田、永倉は酒に手を出すので却下。山南も土方達は表だって動くことは出来ない。

したがって、斎藤と月が恋人同士になり、客人のフリをして芹沢の動向を探るのに適しているというわけだ。


「そういうわけだ。斎藤、月、行ってくれるな?」


「はい!」


「承知。」


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