桜縁




以前から斎藤に剣を習い、師として仰ぐようになってから剣の腕もそれなりに上達していた。

そして今回、師である斎藤と任務に加わるのだ。


新撰組として斎藤や皆の役に立てることになるなど、願ってもない機会だ。


月は自分の部屋で今まで着ていた着物を脱ぎ、土方が用意してくれた女性らしい綺麗な着物に袖を通して、長く垂らしていた髪を結った。







支度を整え、皆のいる広間へと向かう。


「支度出来ました。」


障子を開け中へ入るや否や、皆の驚いた声や目を丸くしたおかしな表情が飛び込んできた。


「おおっ!」


「こりゃあ、すげえな。」


「べっぴんさんじゃねぇか!」


「月の晴れ着だーー!!」


「やはり、淡い色にしておいて正確でしたね。月さんによく似合っています。」


「山南さんまで…。」


皆に褒められるとやはり何処か気恥ずかしくなってしまう。


顔を赤らめながら視線を皆から外す。


それが沖田のカンに障ったのか、ヤジを飛ばしてくる。


「ふーん、馬子にも衣装って言うけど、本当のことだったんだね。」


不機嫌そうに言う言葉が刺々しい。


前にも見たことがあるため、そう見えても仕方がないと思う。


でも、なぜか胸が少し痛かった。


「とりあえず、斎藤と並んでみろ。」


土方に言われ、斎藤の隣に立ってみる。


「ま、不釣り合いってわけでもねぇが、斎藤の方が地味か?」


「そうですね、若干違和感がありますね…。」


「なんなら、斎藤も着替えてみるか?」


ニシシ笑いをしながら永倉が言うと周りも囃し立てるように笑う。かなり楽しんでいるようだ。


「いや、これでいい。」


ため息を尽きながら答える斎藤。


そう言う斎藤を見ていると、強烈な痛い視線を感じる。


この感じ前にも感じたことがある。


そう、桂と結婚させられそうになった時、まさにこうした状況に感じたものだ。


その視線の出元を見ると、沖田が不機嫌に輪をかけたような怖い顔でこちらを見ていた。


慌てて視線を外す。


「さて、これで後は奴の寝首を掴むだけだ。頼んだぞ、斎藤、月。」


「二人が無事で戻って来るのを待ってるぞ。」


「はい。」


「承知。」


皆に送り出され、それぞれ戻って行く。


月は廊下を歩いて行く沖田を追い掛けた。


「沖田さん!」


「なに?」


< 106 / 201 >

この作品をシェア

pagetop