桜縁
以前から斎藤に剣を習い、師として仰ぐようになってから剣の腕もそれなりに上達していた。
そして今回、師である斎藤と任務に加わるのだ。
新撰組として斎藤や皆の役に立てることになるなど、願ってもない機会だ。
月は自分の部屋で今まで着ていた着物を脱ぎ、土方が用意してくれた女性らしい綺麗な着物に袖を通して、長く垂らしていた髪を結った。
支度を整え、皆のいる広間へと向かう。
「支度出来ました。」
障子を開け中へ入るや否や、皆の驚いた声や目を丸くしたおかしな表情が飛び込んできた。
「おおっ!」
「こりゃあ、すげえな。」
「べっぴんさんじゃねぇか!」
「月の晴れ着だーー!!」
「やはり、淡い色にしておいて正確でしたね。月さんによく似合っています。」
「山南さんまで…。」
皆に褒められるとやはり何処か気恥ずかしくなってしまう。
顔を赤らめながら視線を皆から外す。
それが沖田のカンに障ったのか、ヤジを飛ばしてくる。
「ふーん、馬子にも衣装って言うけど、本当のことだったんだね。」
不機嫌そうに言う言葉が刺々しい。
前にも見たことがあるため、そう見えても仕方がないと思う。
でも、なぜか胸が少し痛かった。
「とりあえず、斎藤と並んでみろ。」
土方に言われ、斎藤の隣に立ってみる。
「ま、不釣り合いってわけでもねぇが、斎藤の方が地味か?」
「そうですね、若干違和感がありますね…。」
「なんなら、斎藤も着替えてみるか?」
ニシシ笑いをしながら永倉が言うと周りも囃し立てるように笑う。かなり楽しんでいるようだ。
「いや、これでいい。」
ため息を尽きながら答える斎藤。
そう言う斎藤を見ていると、強烈な痛い視線を感じる。
この感じ前にも感じたことがある。
そう、桂と結婚させられそうになった時、まさにこうした状況に感じたものだ。
その視線の出元を見ると、沖田が不機嫌に輪をかけたような怖い顔でこちらを見ていた。
慌てて視線を外す。
「さて、これで後は奴の寝首を掴むだけだ。頼んだぞ、斎藤、月。」
「二人が無事で戻って来るのを待ってるぞ。」
「はい。」
「承知。」
皆に送り出され、それぞれ戻って行く。
月は廊下を歩いて行く沖田を追い掛けた。
「沖田さん!」
「なに?」