桜縁




冷やかかな視線が送られる。


あの時と同じ目をしている。


「え、えっと……。」


何かを言わなくてはと思うのだが、口ごもってしまいうまく言うことが出来ない。


「桂さんの次は一君か…。月ちゃんってああいうのが好み?」


「ち、違います!」


「なにが違うの?」


「なにがって……。」


「僕がどんなに言っても、何の返事もないし、そのくせに平気でそんな格好や、色目を使うことが出来る。そんなに一君がいいなら、僕じゃなくて一君を追いかければいいじゃん。」


「……分かりました。なら、私が沖田さんと一夜を共にすればいいんですか?」


「え?」


「そうすれば、すべてが誤解だと分かってくれるんですか?」


自分でも分かるどんなことを言い出しているのか。でも、もうこれ以上沖田には誤解されたくなかった。


互いに思い合うだけの関係でもいいと思い、自分の中にあった恋心を封じ込め、口づけをされた時だって……、どんな想いでいたか……。


月は唇を強く噛み締め、溢れそうになる涙をこらえる。


「……それって、僕と床を共にするってことだよね? それが何を意味するか分かって言ってるの?」


「分かってるから言ってるんです!」


「ふーん、なら……。」


いきなり腕を掴まれ、近くの部屋へと引き込まれ、壁に身体を押し付けられる。


「いたっ!」


「それが本気なら、君から口づけしてみてよ。僕と一夜を明かすなら、それくらいしてくれてもいいよね?」


「……!」


真剣な目で月の瞳を捕らえる。


まるで金縛りにでもあったかのように、身体が動かない。


これは違う。


これは月が知っている沖田の顔ではない。自分に好意を寄せ、あの夜に唇を奪った時のものとも違う。


ただ、欲求を満たすだけの男の顔だ。


「沖田…さん…。」


奮える手を伸ばし、沖田の頬に触れる。


今までの感情が溢れるように、涙がポロポロ流れ落ちる。


今、自分の目の前にいるのは、互いの想いを大切にする沖田ではなく、ただの女と遊ぶことだけを望む男。


そう思うだけで涙が止まらなかった。


きっと、綺麗にした化粧は涙でグシャグシャになり、見るにも耐えかねないものになっているだろう。


それでも月はやめなかった。


涙でぼやける視界の中で、沖田の頬を求めるように何度撫でた。


「………もう、いいよ。」

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