桜縁
「!」
「そんなにしてまで、兄を助けたいか?」
「………っ!」
髪の毛を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
「月!!」
「黙れっ…!!」
「ぐあっ……!!」
太い棒で叩かれ、膝をつく史朗。
「……なかなか、いい目をしているな。兵士として、徴用するには惜しい……。おい、刀を持って来い!!」
離れたと思いきや、隊長は兵士に刀を持ってこさせ、それを月の膝下に投げる。
「!」
「それなら、女のお前でも敵に気づかれずに、相手の懐に入ることが出来る。……それを持って、長州にいる高杉の娘を討て!」
「!!」
「そうすれば、お前達を自由にしてやる。もちろん、この先お前達を狙う者共から守ってやろう……。ただし、お前がしくじった時は………、」
すうっと、隊長の指が史朗の方をさす。
「あいつから先に殺してやる!」
「!!」
「むろん、断れば即刻に奴は死ぬぞ?……どうだ、出来るか?」
「…………。」
「月!やめろ……!月!!」
月は史朗が止めるのも聞かずに、膝下に置かれた短剣に手を伸ばし、それを掴んだ。
これで、取り引きは成立した……。
「……おい、奴らを自由にし、準備を整えさせろ。」
「はい。」
史朗の縄が解かれ、自由にされる。
史朗はまだ膝をついている月に駆け寄る。
「月……!」
「……うっ、ううっ……!」
「月………。」
声を押し殺して泣く妹を、史朗はただ抱きしめてやるしか出来なかった。
月の取り引きのおかげで、商団の者達も無事に解放されたが、その視線は冷たい者であった。
後ろから民に紛れて、兵士達が後をつけているらしい。
史朗はまだ衝撃から立ち直れない月の肩を、優しく抱き寄せながら、商団と共に、長州の姫がいるという都へと向かった。
屋敷へたどり着く頃には、月も落ち着きを取り戻していた。
しかし、状況は何も変わっていない。
月と史朗は芸を見せるという名目で、姫に会うこととなっている。
その準備のため、部屋にこもっていた。
「……月。」
心配そうにする史朗。
ここへ着くまでの間、ずっと月の側にいてくれた。
「……大丈夫よ 兄さん。商団の人達を助けるためだもの……。仕方がないわ。」
「月……!」
「それに、私達も自由になれる…!だから……。」