桜縁
「月……!」
「兄さん……?」
史朗は思わず月を抱きしめていた。いたしかない理由があるとはいえ、戦とは無関係の人を殺さなければならないのだ。
その思いは計り知れない……。
「必ず、お前は俺が守ってやるから!」
「ありがとう……。史朗兄さん……。」
二人はその時まで、。
「お嬢様がお待ちです。準備は整いましたか?」
「!」
外から迎えの声が聞こえる。その時が来たのだ。
月と史朗は覚悟を決め、部屋を出て行った。
大広間では、姫の誕生を祝う席が設けられ、大勢の参加者達で賑わっていた。
「お嬢様、連れて参りました。」
「お通ししなさい。」
襖が開かれ中へと入り、二人は姫の前へと出る。
「お前達が薩摩から参った芸者か。今宵は私のために、舞いを踊ってくれるとか……?ぜひ、見せておくれ。」
二人は位置につき、舞いを舞う体制に入ると音楽が鳴り響き、二人は踊り出す。
その踊りは、見る者を華やかにも切なく、淡いものへと変えていき、見る全ての者達をくぎ付けにした。
音楽が消えると同時に、歓声と拍手が沸き上がる。
「素晴らしい!素晴らしいぞ……!!」
「こんな舞いは見たことありませんわ!!」
「良かったですね 姫様!」
踊り終えた月を、優しく見据える蛍。
だが、こんな歓声とは裏腹に、暗殺の時が近づいていた。
月は覚悟を決め、姫である蛍の前に進み出る。
「もし、御無礼でなければ私達と一緒に、姫様も一曲いかがですか?」
「姫様……!」
「せっかくの機会ですから、姫様も踊られてはいかがでしょうか?」
姫を踊るようにと誘う侍女達。
周りの者達もまんざらではなさそうだ。
月は姫に手を差し出す。
「姫様……。」
この手を姫が取れば、確実に蛍は死んでしまう。
何も知らない蛍。
周りの者は気づいていなかったが、微かに月の手が奮えていた。
「……いや、遠慮しておこう。今宵はそなた達のおかげで、楽しませてもらえた。礼を言う ありがとう。」
「………!」
計画は失敗だ。
これでは、史朗が死んでしまう。
月は放心状態になってしまう。
しかし、その瞬間に煙幕が上がる。
「!?」
周りは白い煙りに包まれ、その場にいた者達が騒ぎ出す。
「敵だ!敵が現れた!!」