桜縁
確かに、いくら仲間割れをしたからと言って、仲間じゃなかったわけではない。
新撰組がここまでこれたのだって、芹沢のおかげでもあるのだ。
せめて最後ぐらい、いい夢を見させて、静かに冥土へ送るのも、今まで世話になった芹沢への餞かもしれない。
「……分かった。その役はお前に任せよう。でも、なんでお前がこんな物の作り方を知ってるんだ?」
「以前にも言いましたよね。私は花街出身だって。花街にいれば、いろんなことがあるんです。だから護身用に作ってたんです。」
「やってくれる。」
剣だけでなく毒まで使いこなすとは、大した女子である。土方はフッと目を細めて笑う。
ある意味月が敵でなくて良かったと思う。
後は、規律を乱し新撰組を悪評で陥れた人間を、粛清するだけだ。
決行に伴いそれぞれ持ち場へと戻っていった。
決行の日は朝からドシャ降りで、屯所内が蒸し暑い。
月が廊下を歩いていると、反対側から沖田が歩いて来る。
あっ、と足を止めるが、沖田は目も合わせずに月の横を歩いて行った。
あれから沖田とは話していない。
冷え切った彼の態度が、今の関係を表しているようだ。
胸が痛む…。
それを振り払うように、月は前を向いて歩いて行った。
宴会は角屋という花街でも有名な飲み屋で行われる。
芹沢達は何も知ることなく、飲めや唄えやで盛り上がっていた。
芸妓が舞いを踊ったり、酌をしたりしていた。もちろんその酌をする酒には、月が用意した睡眠薬が混ぜられている。
それを知らずに芹沢は酒を飲みつづけた。
酔いが回り、付き人と共に芹沢が退出して行く。
行き先は新撰組屯所〔八木邸〕である。
フラフラしている芹沢をいい調子であった。後は薬が聞いて楽になることを祈るだけ。
「後は頼んだぜ、近藤さん。」
「ああ。」
「あれ?土方さんもう帰るのか?せっかくの宴会だってのによ?」
何も知らない永倉が尋ねてくる。
「ああ、やらねぇといけない仕事があるからな。」
「なんだよ、せっかく皆で盛り上がろうって時に……、って左之も帰るのか?」
土方と一緒に立ち上がっていた原田に尋ねる。
「ああ、悪いな。今夜はやめておくよ。」
「なんだよ、付き合い悪いな。」
面目なさそうに謝る原田を横に、不満をもらす永倉。