桜縁
「あれ?総司も行くのかよ?」
「うん、なんか眠くなってきちゃったし、屯所に帰って休むとするよ。後はごゆっくり。」
にこりと目を細めて笑う沖田。
眠いんじゃない。これから人を殺しに行くのだ。
「なんだよ…。つまんねぇの。」
ふて腐れて酒を煽るように飲む平助。
一先ずはこれで大丈夫だろう。お互いに顔を見合わせ広間を後にした。
土方、原田、沖田、がいなくなり、残ったのは近藤と月、それから永倉と平助。いざというとき二人を止める役となった斎藤がその場に残った。
にしても、空気が重くなってきてるような気がする。
外の雨足が強くなり、出ていった沖田達が気になる。
「雨強くなってきたな。これ以上強くなる前に帰らないとまずいな。」
「ああ、そうだな。帰れなくなったらまずいしな。」
今二人が帰ってはまずい。
二人には絶対に計画が知られるわけにはいないのだ。
「そ、そうです。お酒もう少し飲みませんか?私で良ければお酌しますよ?」
無理矢理笑顔を作って、永倉達に近づく。
「いや、さすがにこれ以上、酒か入ったらマジで帰れなくなるから、俺はやめとくわ。」
「そうだな。月ちゃん悪いが、また今度酌を頼めるか?帰れなくなったら、まずいからな。」
女の人からの誘いは絶対に断らない永倉と平助が、こんな時に限って真面目に断るとは、なんとかして二人が帰るのを阻止しなければいけない。
でも、こんな場所で止める理由なんて見つからない。
困惑する月。
「今、帰るのはやめておけ。この大雨の中帰ったら、それこそ大変なことになるぞ?」
「大変なことって?」
「まさか、何かこれからあるのか?」
二人の表情に緊張が走る。
「……風邪を引き、それを看病する者の身にもなれ、ということだ。」
斎藤は酒を口にしながら、ちらりと月を見る。
確かにこの大雨の中帰っては風邪もひくだろう。
「もう少し、雨宿りだと思って飲んで行け。トシには後で俺から言っておく。俺ももう少しお前達と飲みたいからな。」
内心近藤が一番に出て行きたいはずだ。それとは裏腹に穏やかな笑みを浮かべていた。
「まあ、近藤さんが言うならいいか。」
「そうだな。近藤さんとこうして飲むのなんていつ以来だろうな。」
「月、悪い。酌してくれ!」
平助が自分の杯を月に差し出してくる。