桜縁
あと数分もすれば、芹沢達が寝静まって一刻が経つ。
「……そろそろ行くか。」
それぞれ顔を見合わせ、外から土方、山南、沖田、原田、と芹沢の部屋に忍び寄る。
中の気配を伺うと、芹沢は高鼾をかいて、残った者達と気持ち良さそうに眠っていた。
月が混ぜていた薬のおかげで、芹沢も土方達の気配に気づくことはない。
再度それぞれの覚悟を確かめるかのように、土方は周りにいる者達を見た。
そして部屋に一歩足を踏み入れた。
一方、永倉達は土砂降りの中、屯所へ向かって走っていた。
その後ろを斎藤が追いかける。
「ついてくんなよ!!」
「俺はあんた達を止めるという命を受けている。あんた達をこのまま行かせるわけにはいかぬ!」
その言葉に永倉が足を止め、踵を返した。
濡れた地面がバシャと水を弾く。
「そこまでする程、俺達が信用出来ねぇってんのか!?ここまで一緒に戦ってきたんだぞ!?それくらいの覚悟はしてんだよ!!」
「言ったはずだ。これはあんた達を守るためだと。そして、これからも共に戦うために、あんた達を行かせるわけにはいかん。」
「はっ!話しになんねぇな!なら、俺達を力ずくで止めてみせろよ!!」
「俺、先に行くわ!」
「そうはいかん!」
踵を返し走ろうとした平助の首筋に、一本の針が突き刺さり、平助は事切れたかのように地面に倒れ込んだ。
「平助っ!!」
「!」
倒れた平助に一瞬気を取られた永倉の隙を見逃すことなく、斎藤は永倉の首筋に刀の柄を叩き込み、脇腹を峰打った。
「あがっ!…さ、斎藤……!」
歯を食いしばりながら、立ち上がろうとするが、永倉の身体は力が抜け落ち、その場に尻餅をつくようにして倒れた。
「言ったはずだ。俺はあんた達を生かすために、戦うのだ。しばしの間眠れ。」
「くっそ……!」
永倉は倒れた身体を起こすことも出来ずに、その場で意識を失った。
冷たい雨が三人に降り注いでいった。
一方、土方達の芹沢暗殺は無事に決行され、芹沢を含め周りにいた者達も、その執行に巻き添いをくらい、見るに無惨な姿となり、八木邸は血で赤く染まった。
苦しまず逝けたのが、せめてもの幸いだったかもしれない。
翌日には葬儀が執り行われ、幹部以外の隊士達には病死と報告された。