桜縁
平助はなかなか納得がいかないようだ。この前とは違い、今度は遊女としての隠密行動だから、気が気でないのだろう。
「斎藤と総司を護衛役として付けておいてやる。いざとなったら助けてやるから、安心してやって来い。」
「ご心配なく。」
万が一の守りということだ。
本来ならここで沖田が何らかしら、口を挟むところだが、この時に限ってか、目すら月と合わせようとはしない。
完璧に愛想が尽かされたということだ。
もうとっくに諦めたいたことだから、いまさらどってことない。
月が情報収集をし、沖田と斎藤が護衛ということで話しはまとまり、それぞれに動き出す。
月は土方から預かっていた着物を取り出す。綺麗な着物だから、大事に取っておいたのだ。
「それ着るの?」
聞き慣れた声がし、後ろを振り返ると沖田が立っていた。
「沖田さんには関係のないことです。放っておいて下さい。」
月は突き放すように言うと、手元を動かす。
「君、元々は長州の人間でしょ?あんまり、でしゃばると帰る時、困るんじゃない?」
「……私は長州に捨てられた人間ですから、今更どってことありません。」
「ふーん。」
「用がないのなら、出て行って下さい。準備に差し障ります。」
「そんなに男に触られたいかな。」
「私は元は芸妓です。そんなこと沖田さんには関係ありません。」
月は立ち上がり、出入口に立っていた沖田を無視して障子を閉めようとする。
「それ、本気で言ってるの?」
「私は新撰組の一員です。沖田さんの女ではありませんから。」
「なら、なんで目を合わせようとしないの?」
「出て行って下さい!」
尚も沖田と目を合わせようとしない月。
沖田は月の手を掴み、強引に中へ入ると、反対の手で障子を閉め、壁に押し付けてきた。
「……!?」
「それ本気で言ってるの?関係ないって?」
明らかに沖田は怒っている。ついさっきまで無視していたのが嘘のようだ。
「はい、そうです。沖田さんには関係ありません。」
「こういう事態になっても、まだ君は分からないんだね。」
「……。」
「やっぱり酷いのは君の方だよ。」
「ん………!」
沖田は月の顔を正面に向かせ、自分の唇を押し付けてきた。
甘い甘い口づけ。
これが想いの繋がっていた状態ならどんなによかったか…。