桜縁
たまらずに月は沖田から無理矢理身体を離した。
「もう、こんなことやめて下さい!他の女を抱いたくせに、汚いです!」
こんなふうに他の女を抱いたのだとしたら、悔しくて悲しくて仕方がない。
「君だって他の男の所すぐ行くくせに!」
「!」
「僕だって平気なわけじゃないよ。」
「沖田さん…?」
「もういいよ。早く仕事にもどりな。」
フイッと沖田は月から離れ、部屋を出て行く。
「沖田さん!沖田さん…!」
月は呼び止めるが、沖田は振り返らずに行ってしまった。
関係ないなんて嘘。
本当は振り向いて欲しかっただけなのだ。
そして沖田も…、月への想いでもどかしい想いをしていた。
その後、月は過激派浪士が潜伏しているという角屋に、芸妓として入り込む。
見事なほどに化けていたため、他の芸妓にも気づかれずにすんでいる。
そして、その近くの部屋では斎藤と沖田が待機しているはずだ。
月は他の芸妓と一緒に盆を持ちながら、酒をついで回っていた。
賑やかな宴会会場からの声を聞きながら、沖田達は暗闇の中警戒をし続けていた。
「おう、姉ちゃん、こっちにも酒くれや。」
「へぃ。」
月の声だ。
酔っ払いの相手をしているのだろう。
沖田の刀を持つ手に力が入る。
「……気になるのか?」
沖田の様子に気づいた斎藤が話しかけてきた。
「別に。」
ぶっきらぼうに答える沖田。明らかに気にしている。
「そんなに嫌なら、彼女を止めに行ったらどうだ?」
「何が言いたいの?」
「あいつは女としても、剣客としても、できた女子だということだ。」
以前に足元をすくわれても、仕方がないと言った斎藤の言葉を思い出す。
確かに月は誰もが認める魅力ある女の子だ。
斎藤の言うように本当に足元をすくわれてしまうかもしれない。
だけど、自分のせいで彼女を傷つけているのも事実であり、なおも傷口をえぐっている。
気づいて欲しくて、振り向いて欲しくて、恋しくてたまらない。
だから触れないようにしていたのに…。
月が泣いたあの日、斎藤から言われて、急に月から振られるのが怖くなり、あえて避けていた。
でも、放っておけなくて、月に見つからないように陰から見守っていたのだ。
遊女として潜入すると聞き、居てもたってもいられなかった。