桜縁
「姫を……!姫をお守りするのだ!!」
「避難しろーー!!」
煙幕で周りが混乱する中、誰かが月を引っ張り、表へと連れ出した。
遠くの方で騒ぐ声が聞こえる。
月は人気のない廊下へと連れ込まれた。
「月、大丈夫だったか……!?」
「兄さん……!」
「何処も怪我してないな!?」
煙幕を上げたのは、どうやら史朗の仕業のようだ。おかげで周りは誰も、月達の脱出に気づいていない。
「ええ、大丈夫……!それよりも、商団の人達が……!」
暗殺が失敗したのなら、兵士達の監視化にある商団が危ない。
「それは大丈夫だ!今頃、この騒ぎに情じて逃げているはずだ。問題はここからだ…!」
すると、どやどやと薩摩の変装をした兵士達が、宴会会場へと入り込んで来た。
「……!」
「逃げたのが見つかると面倒だ!ここからは、二手に別れよう……!」
「兄さん……?」
「俺は敵の目を引き付けるから、お前はその間にここから脱出して、あの社で待っていろ!」
「ダメよ!見つかったら、大変なことになるわ!私が行くから、兄さんが逃げて!」
「馬鹿を言うな……!お前では、奴らに見つかって利用されるのがオチだ!心配はいらないから、早く逃げろ!!」
「いないぞ! あいつらは何処に消えた……!」
「!」
「まずい!ここにいたら、見つかる!必ず、迎えに行くから、お前は逃げるんだ!!早く行け!!」
「いや!いや……!」
「何処だーー!!」
「貴様ら!!薩摩藩か……?!よくも……!」
突いばいの音まで聞こえて来る。
見つかるのは、もはや時間の問題だ。
「早く行け!!」
「兄さん!!」
「……っ!」
史朗は掴んでいた月の手を引き離し、戦場となっている場所へと飛び出して行った。
「兄さーーーん!!」
刀が交わる音と共に、月の叫びが虚しく響き渡った……。
月はたった一人で、史朗と約束をしていた社へと走って行った。
走る間に、涙が溢れて止まらなかった。
何度も何度も、足が止まりそうになったが、その度に史朗が逃がそうと必死になっていた顔が浮かぶ。
だから、走る足を止めることは出来ない。
月はひたすら走り続けた……。
月が気がついた時には、辺りはすっかり明るくなっていた。
泣き腫らした目を擦りながら、辺りを見渡す。