桜縁
「何をやっているんですか?」
月が言うと斎藤を振り払い沖田が、月を睨みつける。
どうやら、物音を立てたのは沖田のようだ。
「すまん。邪魔をしたな。」
月に謝る斎藤。ちょうどよかったから、問題はない。むしろ任務は無事完了である。
「いえ、必要な情報は手に入りました。奴らは、酔っていて注意が逸れているので、逃げ出すなら今のうちだと思います。」
「分かった。俺は先に行って様子を見て来よう。」
斎藤は周りの状況を確認するために、部屋から出て行った。
月も斎藤の後を追うように部屋を出て行こうとする。
「なんで他の男に身体を触らせるの?」
「……?」
沖田はじっと月を睨みつけていた。
「任務だから仕方ありません。」
「任務なら、そんな開けた着物のまま、平気で男の前にも立つんだ。」
「!」
月はようやく自分の姿に気がつく。急いで来たから、着物が開けていたことを忘れていた。
真っ赤になりながら、慌てて胸元を寄り合わせる。
が、その手を沖田から掴まれる。
「そんなに見せたいなら、僕が見ても文句はないよね?」
「!」
沖田の手が懐に入り込み、するり、するりと一枚ずつ着物を脱がしていく。
「沖田さん…。」
だけど不思議と嫌な気はしなかった。
なのに、涙が溢れてこぼれ落ちる。
最後の一枚となると、沖田がその手を止めた。
「泣くぐらいなら、嫌だって言えばいいのに……。」
沖田の身体が微かに震えていた。
「沖田さん……。」
「他の男に、簡単に身体なんか触らせないでよ。」
月の肩に頭を埋める沖田。
もしかしたら、ずっと心配して妬いていたのかもしれない。
斎藤の時も簡単に綺麗な着物を着て、斎藤の女のフリが出来る月。今回だって簡単に遊女になった。
そんな時に決まって、すれ違いが生じていた。
分かってなかったのは月だったのかもしれない。
月は優しく沖田の身体を抱きしめ、頭を撫でた。まるで、沖田の想いに寄り添うかのように……。
そして、二人は宿屋を後にした。
屯所に戻った月は土方に情報収集の詳細を伝える。
「なんだと!?あの姫さんが、過激派浪士に雑ざってるだって?」
「はい。」
かなり言いにくい内容であったが、月はすべてを土方に話した。