桜縁
どうやら、過激派浪士達は長州の命令で京へ入り込んだらしい。
長州の目的は不明だが、過激派を出したということは、何らかのことを起こすつもりらしい。
そして、その計画は過激派の主導者【吉田麿】そして過激派に宿舎を提供した角屋の主【古高俊太郎】が握っていて、昨夜宴席に出ていた下っ端浪士達は知らせていないらしい。
部下達に知らせてないところをみると、かなり念密組まれた計画のようだ。
そして、なによりその計画の指揮を取るのが、沖田の婚約者でもあった【高杉蛍】だということ。
後の長州を担う者として参戦したらしいが、その意図の詳しいことは分かっていない。
ただ、分かるとするなら、彼女は沖田から裏切られ、信頼をおいていた侍女にまで、刃を向けられたということだ。
沖田は月の報告を聞きながら、黙っていた。
「また、面倒なことになりやがったな。その吉田と古高が計画を握ってんだな?」
「はい。それと…。」
「なんだ?」
「長州には秘密の薬があると聞きました。」
「秘密の薬?」
「はい、何の薬かは分かりませんが、大切な薬だということは間違いありません。」
薬という言葉に山南が反応したが、あえてそれには触れないほうがいいだろう。
山南の腕はまだ治っていないのだ。
「……とりあえず、奴らの動向を探れ、背後に大物がいるとなっちゃ、ただ事じゃないはずだ。必ずボロが出るはずだから、その隙を見逃すんじゃねぇぞ?」
京の町を巻き込み、ひそかに動こうとする長州。
京な治安を守る新撰組にとって、重要かつ大物捕りの予感がしていた。
新撰組はすぐに会津に連絡を取るも、会津藩主【松平容保】は幕府の大名の地位を持ち、本州へと帰還していた。
このご時世だ。藩主が長らく本州を空けとくわけにも行かず、藩主は部下達に京の都を守るよう指示していた。
だが、元々浪士の集まりである新撰組を快くは思わず、報告を受けてもなかなか動く気配はなかった。
と、いうわけで今や新撰組は、独断で情報を掴み、任務にあたるようになっていた。
そして、思わぬ方向へと事態は動き出す。
長州の過激派を束ねることになった蛍は、計画を推し進めるために準備をしていた。
あの時、沖田からかけられた言葉が今でも忘れられない。
ひどく冷たい目をして、蛍に刃を突き付ける。