桜縁
母の目から涙が溢れこぼれ落ちる。
「悲しみや怒りは時と共に解決するというのに、この悲しみだけは、決して消えてくれない……!」
留めく溢れる涙。その悲しみは真相を知るまで、終わることがない。例え真相が分かったとしても、死んでいたなら、一生この悲しみと共に、人生を終わらせるのだろう。
母はもう一度、我が子のホトガラ(写真)を見る。
「私が悪かったのだ……!あの時、私があの子を守ってやれずに……っっ!」
「奥様……!」
侍女もたまらずに主に寄り添う。彼女もまた同じような悲しみをもっていたのだ。
「なんとしても、あの子達を見つけなければ……!見つけて【円香】を安心させてやらなければならぬ!」
「そう、思っていただけでも、姉も報われるはずです。」
留めなく流れる涙。
二人は寄り添い合いながら泣いた。
「ねぇ、桂はお母様が何を悩んでいらっしゃるのか分かる?」
一緒に資料を見ていた桂に尋ねる。
「なんのことですか?」
意味深げな質問に読んでいた資料から顔を上げる。
「知っているとは思うけど、お母様は毎年この時期になると、元気を無くされるわ。その原因が何なのか知ってる?」
「……知りませんね。どこか体調が悪いのではありませんか?」
一瞬戸惑うがすぐに、にこりと笑顔になる桂。
「はぐらかさないで!私は真剣なのよ?毎年同じ時期になるってやっぱり変だわ。」
「そうかもしれませんね。いずれにせよ、今はやるべきことをやらなければなりません。姫様が立派に勤めを果たされれば、奥方様も元気になるとおもいますが?」
「……分かってるわよ。」
「それにしても、何故過激派に加わろうなどと言ったのですか?」
今度は逆に桂が蛍に質問をした。
過激派入場を長州が許したにしても、姫である蛍が出る幕ではない。後継者として必要な経験。と言っていたが、他の目的もあるのではないかと見ていたのだ。
「言ったでしょ?私はこの長州の姫なの。いずれこの長州は私が治めるもの。長州が問題にしてきた過激派が動き出すんだから、私が参戦してもいいでしょ?」
あたかも当然のように言う蛍。
確かにこんなに珍しい機会もないだろう。
「でも、今回の計画は京を巻き込む大規模な計画です。そうなれば、新撰組とは必然的に敵にならざるを得ません。それでもいいのですか?」