桜縁
「わりぃな…。そう言ってもらえると助かる。本当ならさっさと出て行ってもかまわねぇのに、俺達の側にいてくれて感謝してる。」
「私も、新撰組の皆さんによくしていただいて感謝しています。」
「月…。」
そっと原田が月の頬に触れる。原田の顔がほんのりと赤くなっていた。
「あんまり無茶すんなよ。お前に倒れられたら困る。」
「はい、気をつけます。」
「……よし!じゃあ寝るか!」
「はい。」
月はお酒をお盆に載せて立ち上がる。
「なんだよ、そんなの置いておけ。」
「え?」
「お前は今日は俺と一緒に寝るんだからよ。」
「!」
ニヤリと笑う原田。月の顔が真っ赤に紅潮する。
「な、なに馬鹿なことを言ってるんですか!?からかわないで下さい!」
「別にからかっちゃいないが、ダメか?」
「ダメです!そんなこと言ってないで、さっさと寝て下さい!寝坊して土方さんに叱られても知りませんからね!」
プイッと原田に背を向けて、月は出て行った。
「……まったく。あれじゃあ口うるさいカミさんになりそうだな……。」
原田はその背を見送り、夜空を見上げて微笑んでいた。
「なに!?壬生狼がこの角屋を嗅ぎ回っている!?」
「はい、会津だけならまだしも、奴らまで嗅ぎ回ってるとなると、武器の取り引きもまんろくに出来ません。」
長州との取り引きをしている商人が、主の元へと戻ってくる。
計画に先立ち、武器や弾薬を長州から持ち込むのに、新撰組が昼夜問わずに警戒しているため、闇取引さえも上手くいかないありさまだ。
「くっそ…!壬生狼め、我々の邪魔をしおって!」
「闇取引が出来なければ、武器が京に届きません。いかが致しましょう?」
「吉田様に相談してくるゆえ、お前はここで待ってろ。」
「はい。」
武器が入って来ないのでは、計画をした意味がない。とにかく、壬生狼に気づかれる前に計画を実行しなければならない。
角屋の主は宿屋に潜んでいる吉田のもとへと向かう。
「吉田様!」
「……壬生狼のせいで、長州との取り引きが失敗したか?」
すでに情報は吉田の耳にも入っていたらしい。
「はい。闇取引でも奴らに見つかりはしませんでしたが、かなり危うい状況です。武器が手に入れなければ、せっかくの計画が台なしです。」