桜縁
幸いにも急所は外れていて、命には別状はなかった。
しばらく安静にしていれば、良くなるとのことだった。
「容態は安定したらしいよ。しばらく休めば治るとのことだ。」
広間へと戻ってきた井上が言う。
その言葉に一気に安堵感が広がる。
「良かったー!」
「まったく、無茶しやがって…。」
永倉と沖田だけでなく、土方や他の幹部達も広間に集まっていた。
「にしても、驚いたね。まさか、彼女を襲ってくるとは。」
「武士の風上にもおけねぇ。」
「でも、正体がばれたわけじゃねぇんだろ?あの時とは姿格好が違うんだから。」
「本当のところは本人に聞かないと分からねぇが、角屋だけでなく升屋もグルだということだ。お前ら徹底的に奴らの近辺を探し回れ。奴らの計画を知るにはそれしかねぇ。」
角屋だけでなく升屋までもが長州の息がかかってるということだ。
このままでは長州の思う坪だ。
なんとしてでも奴らの企みを暴かなければならない。
それからしばらくして、月は目を覚ました。
見慣れた天井が広がっている。
そこへドタドタとあわただしい足音が近づいてくる。
「月ーー!大丈夫か!?」
「……平助君?」
「お、ようやく目を覚ましたか。」
「気がついて良かった良かった!」
「原田さん、永倉さんも。」
月はゆっくりと身を起こそうとすると、傷口が激しく痛む。
「いっ……!!」
「おいおい、無茶すんなよ!?まだ、傷口が塞がってないんだろ?」
「こ、これくらい大丈夫です。」
「無茶すんなよ。まだ、寝てろ。」
「本当に大丈夫です。それより、あの後どうなったんですか?」
傷よりもそっちが大切だ。月は自分の身体も省みずに原田達に尋ねた。
「そのことについてだが、先にこっちの質問に答えろ。」
逆の廊下側の襖が開き、土方達が入ってくる。
沖田と斎藤も一緒だ。
「土方さん……!」
まさかのお出ましに目を丸くする原田達。それに構わずに土方達は月の傍に座る。
「いったいあの場で何があったんだ?」
「って、土方さん。今そんな話しする場合じゃねぇだろ…?!」
「そうだぜ!月は病み上がりなんだぞ?」
「お前らは黙ってろ。」
土方の鬼の目で一喝され、二人は黙り込んでしまう。
「角屋にいた浪士達が升屋へ来たんです。」