桜縁
縁側に腰かけていた月に斎藤が声をかける。
「斎藤さん。」
「怪我人なら寝ていろ。」
「もう平気です。それより、長州の動きはどうでしたか?何か変わったことはなかったんですか?」
本日の巡察当番は斎藤率いる三番組だ。角屋が襲われ、長州に対する警戒がより一層強まっている。
古高とその一味の捕縛には成功したが、まだ吉田率いる一味が何処かにまだ潜伏しているはずだ。
「特に変わった動きはない。だが、古高が捕まったんだ。近いうちに動きがあるだろう。」
やはり、計画は実行されるようだ。
仲間が捕まってもやるということは、長州は京を占拠しようと考えているのかもしれない。
そう思うとこれからが心配だ。
「斎藤さん、稽古をつけてもらえませんか?」
「病み上がりが何を言う。今は身体を治すのが先だ。傷が癒えぬまま稽古をするわけにはいかん。」
稽古とはいえ、実戦と同じこと。
手を抜いてしまえば、大事に至ることも少なくない。
「……ですよね。」
なんだか気まずい雰囲気になる。
「私、部屋で休みますね。斎藤さんも……きゃあ!」
立ち上がった月の手を斎藤がぐっと引き寄せ、月は斎藤に倒れ込む形で抱き留められる。
一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに斎藤に抱きしめられているのだと理解すると、慌てて離そうとするが、掴まったあとだった。
「斎藤さん……!」
「あんまり無茶をするな。お前に何かあっては、俺の身が持たん。」
月を抱く斎藤の腕に力がこもる。
心配していたことが、分かってしまったのだろうか、困惑する月。
「斎藤さん……!」
困惑する月に優しくそれでいて、何処か緊張したように斎藤が言う。
「総司に足元をすくわれるぞ、と言ったが、まさか俺がその相手になるとは……。」
「え…?」
斎藤が月の両肩をぐっと掴み、向き合う形をとる。
「月、俺はお前を愛している。」
「!」
「お前が総司を好いていることは知っている。だが、俺はお前を愛してしまったのだ。この気持ちを覆すことは出来ん。」
真っすぐと月の瞳を見つめる斎藤。その想いがどれだけ本気なのか、すぐに理解が出きる。
「総司を好いたままでかまわん。俺の女になってくれ。」
「!」
もう一度、強く抱きしめられる。
高く鳴り響く鼓動……。