桜縁
ーーービチャッッ!!
辺りに大量の鮮血が飛び、倉の中が黒く変色した。
沖田も返り血を浴び、顔についた血を手で拭う。
「………月ちゃん。そこにいるんでしょ?」
「!」
いつの間に気づいたのやら、月は観念したように扉から顔を出した。
その瞳は悲しい目をしていた。
「沖田さん…。」
沖田は人を斬ったばかりだというのに、いつものように笑っていた。
月と沖田は近くの境内へと歩いて行っていた。
夕刻で人通りも少なく、歩いているのは月と沖田の二人だけ。
「また、妙な所を見られちゃったね。もしかして君って意外と運が悪い?」
状態を言いながら笑う沖田。
前にも同じことがあったが、今はあの時とは違う。
月は沖田の視線を合わせられずにいた。
「やっぱり、あんなのは女が見るようなものじゃなかったね…。」
いまさらながらに沖田が言う。
血ならいくらでも見てきたから、いまさら見たからといってどってことない。
「沖田さんはいつも笑っていますよね…。人を斬る時も、遊んでいる時も……。」
まるで辛くないと言わんばかりの笑み。
そんな沖田の姿に、月は違和感を感じていた。
「君は意外なところを見てるんだね。」
「……いつものことですから。」
「いつものことか…。」
沖田が空を仰ぐように見つめる。
すでに夕刻が迫っていた。
「沖田さん。」
月の歩みが止まり、沖田が振り返る。
「ん?」
「せめて、人を斬る時だけは、笑わないで下さい。見ていて痛いです。」
「痛い?なんで?」
「沖田さんの笑顔が、泣いているように見えるから……。」
意外な言葉に目を丸くする沖田。そんなこと自分でも気づいていなかったことだ。
「泣いてるって……、君本当に変なことを言うね。そんなわけないじゃん。僕は好きで人を斬ってるんだよ?新撰組の前に立ち塞がる者は、たとえどんな相手であろうと敵は敵だからね。」
文字通り泣いているわけではない。むしろ戦いの時は楽しんでいるように見えて、逆に怖く感じることもあるが、さっきのは明らかに違う。
やはり、町の人からの裏切りは答えるのだろうか……。
「でも、さっきのは悲しそうに見えました。」
「それは月ちゃんの方じゃないの?僕は悲しくもないし後悔もしていない。奴がどうなろうと知ったことじゃないしね。」