桜縁
「でも、近藤さんは辛そうでした。」
「………。」
沖田自身はそうでなくても、沖田が尊敬する近藤が辛いなら、少なからず彼も悲しいはずだ。
「近藤さんがそうであるなら、沖田さんもそうだったんじゃないんですか?」
月がまっすぐと沖田を見つめる。
これにはさすがに観念したように、顔を掻いて月の方を見た。
「君にはやっぱりかなわないな。」
沖田はそっと月を抱きしめた。
温かな温もりが月の身体を包み込む。
「沖田さん…。」
「そうやって思ってくれるのは、きっと君だけだよ。でも、僕はそれしかないから。人を斬ること以外で、この新撰組で役に立つことはないんだ。」
そんなことない…。
彼がいるからこそ、今の新撰組があるあると思う。それは誰がなっても同じことだ。
だけど、それは言わないほうがいいだろう。
そんな気がした………。
一方、長州の方では角屋の主が新撰組に捕まったという報告を受けていた。
「古高が捕まったので、計画に一部支障が出ました、……ですって。」
吉田の報告書を読み、顔を上げる蛍。
「ま、予想していたことだから、そう焦ることもないだろう。」
桂も冷静にそう判断をする。
京の都に協力者がいるという報告が入った時点で、今回のことは予想範囲であった。
「あの吉田が計画に失敗したからと言って、本藩に戻ってくることはないし、このまま黙って見ていた方が、得かもしれませんね。」
「そうね、この後の計画のこともあるし、あの人達が失敗した時のことも兼ねて、戦の準備もしていた方がいいわね。」
「本気で戦に出られる気ですか?」
「当然。私がこの任務の責任者だもの。戦に出ても文句は言われないわ。」
「ですが、相手はあの新撰組なのですよ?当然、沖田とも戦うことになるのですよ?」
「分かってるわ。だからこそ出るのよ。」
裏切られた沖田への当てつけなのかもしれない。
新撰組は京を守ろうとしている幕府側の者達。長州とは完全なる敵であり、戦う相手。
だからそれを笠に着て、沖田達が守ってきたものを壊し、自分が受けた鬱憤晴らすのだ。それくらいしないと、気が収まらない。
たとえ、当てつけだとしても、それは裏切った沖田のせいなのだ。
そう蛍は自分に何度も何十っぺんも言い聞かせていた。
「なら、いいのですが……。」