桜縁
「必ずどちらかは当たりなんだ。ならその間に連絡網を張って、戦うしかねぇだろ。」
つまり、どちらかが当たりの場合は、もう一方の隊に連絡をし、援軍に走るということだ。
あまりにも無茶苦茶な賭けだが、会津の援軍が頼めない今はその方法しかない。
「………分かった。山南君、奴らは池田屋と四国屋、どちらで会合すると思う?」
「そうですね、私の知る限りで言いますと、池田屋は頻繁に使われていたようですし、古高が捕まった今、全員集めて会合を開くとすれば、ここは四国屋があたりなのではないでしょうか?」
「なるほど、四国屋だな。」
「すみません、私も怪我さえしていなければ、出られるのですが………。」
申し訳なさそうに、詫びる山南。今だ治療法は見つからず、左腕は寝たきりのまま。
「何を言う。山南君にはしっかりと屯所を守ってもらわなければならん。」
出陣ともなれば、新撰組に恨みを持つ輩には絶好の機会だ。
慰めというわけではないが、今の山南にはそれしかない。
皮肉だが、刀を持てぬ隊士は戦場へは駆けていけないのだ……。
にこりと笑いかける近藤だが、山南にはそれが返って痛みとなる。
「トシ、お前は二十四名連れていけ。」
「なっ…!近藤さんが十名で乗り込むのかよ!?それはあまりにも無茶だぜ!!」
「その代わりに、総司と平助を連れて行く。永倉君もこちらの隊に加わってくれ。」
「分かった!」
「こっちが本命の時は頼むぞ。」
「ああ。」
こうして、隊は二つに分かれた。
土方の隊【四国屋斑】隊士二十四名中幹部は、土方、斎藤、原田、で向かう。
対して本命でないとされる【池田屋斑】は近藤、沖田、藤堂、永倉、の十名で向かうこととなった。
しかし、そこへ思わぬ知らせが飛び込んで来る。
そして、それは通りすがりの月も耳にも入ることとなる。
「副長!大変です!」
「どうした山崎?」
「過激派を指揮しているとみられる、長州の姫が京に潜り込んでいるそうです!」
「なんだと? あの姫さんが、自ら戦場に出て来たということか?」
思わぬ登場人物に驚きを隠せない面々。
おそらく長州に見捨てられたことを察したのか、過激派が何らかの手を打ったのだろう。
「仲間割れか……。にしても、姫さんを戦場に出すとは、過激派も思いきったことをしたものだ。」