桜縁
過激派にしてみれば、苦肉の策なのだろう。
だが、これは新撰組にとっても絶好の機会となる。
「どうするトシ?」
「願ってもない大物捕りだ。この機に長州に一太刀浴びせるのも悪くないな。」
「ダメです!!」
「!」
月は広間へと飛び込んだ。これにはさすがに皆驚いている。
「お前なにやってんだ!」
「蛍さんを殺してはいけません!」
「お前には関係ないことだろ!女は引っ込んでろ!」
「女でも新撰組の一人です!蛍さんを殺してはいけません!」
「何か理由があるのか?」
「近藤さん!」
「蛍さんは長州の姫です。姫を殺してしまえば、それこそ長州との関係は悪化してしまいます。いいえ、長州との全面戦争も免れません。それに、会津や幕府も巻き込むことになります。だから、蛍さんを殺してはいけません!」
確かに、新撰組としては長州と全面戦争になろうとも構わないが、会津や幕府、他藩まで巻き込むことになると、それはそれで問題だ。
大物捕りでもかなり危険な大物だ。
「なら、どうしろと言うんだ?」
「人質に捕るのです。蛍さんの性格からして、戦いに出るはずです。私が彼女を捕らえます。」
月であるなら、蛍と面識がある上に予想もしない人物だ。
刀の腕も並の隊士以上にある。
ここは月に任せた方が賢明かもしれない。
「分かった、ならその件は君に任せよう。トシの隊に同行してくれ。」
「はい。」
局長の許可が下り、月も一緒に四国屋へと向かうことになった。
月は急いで準備をするために、押し入れに直していた羽織りを引っ張り出す。
絶対に成功させ、皆の役に立たなければ。
それに沖田との無駄な戦いも避けられるかもしれない。
日が暮れてしまっているから部屋は薄暗かった。
「何してるの?」
声がして振り返ると、そこには隊服を着込んだ沖田が立っていた。うっすらと笑みを浮かべている。
「沖田さん。」
「いそいそと部屋に向かう姿が見えたから、また逢引かと思ってついて来ちゃったよ。」
クスクスと笑う沖田。
月の手に握られている隊服に気づいていた。
「そんなわけないじゃないですか、沖田さんじゃあるまいし、こんな非常事態にそんなことしませんよ。」
逢引と言われて一瞬ドキっとしたが、あえて平静を装う。