桜縁
「非常事態だからこそ、するんじゃないの?いつ死ぬか分からないんだから。」
「なら、沖田さんもやってきたらいかがですか?天神様ならあいてるんじゃありませんか?」
なぜだか、嫌に緊張してしまい、嫌味を言ってしまう。
斎藤との事への後ろめたさと沖田が天神を抱いたかもしれないということを、根に持っていたのかもしれない。
月は気にしないフリをしながら、隊服を整える。
「で、何してるの?そんな物出して。」
「沖田さんには関係ないことです。用がすんだのなら、出て行って下さい。仕事に差し障りが出ます。」
「なんの仕事をするのか気になるじゃん。」
尚も出て行こうとしない沖田。
月が口を割るまで出て行く気はないのだろう。
ただでさえ、ギクシャクとした関係なのに、本当のことを言ったらよりいっそう溝を深めるのではないか、と考えてしまう。
「ねー、月ちゃんってば。」
「いい加減にして下さい!!私が何しようと沖田さんには関係ないことです!」
気がつけば月はそんな事を言っていた。
その瞬間に沖田の目の色が変わる。
「そうだね、君が何しようが僕には関係ないことだし、……でも。」
「!」
沖田は月に近づき、羽織りを持っていた月の手を掴む。
「これを見て関係ないだなんて、言えるわけないよね。」
「………っ!」
月は事を見透かされ、強引に沖田の手を振り払う。
「沖田さんには関係ありません!出て行って下さい。」
なおも口を閉ざす月。
「ふーん。」
沖田はあからさまに肩を竦めると、それ以上聞いても答えないと知ってか、何も言わずに出て行こうとする。
月は慌てて沖田の腕を掴む。
「待って下さい!……何をするつもりですか?」
「君が答えてくれないから、直接近藤さん達に聞きに行く。」
「聞きに行くって……。」
沖田達の目の前で月は出陣命令を受けている。
だから、月が何をしようとしているのか、沖田は知っているはずだ。
それを再び聞いてどうするのかが、気になった。
「君が参加する隊は土方さんの隊だったよね?なら、一君も一緒だよね。口づけをするほどの仲だから、もっと一緒にいたいってわけ?」
「口づけって……まさか!」
驚いて月は沖田を見上げる。沖田の目は決して笑っていない。
知られている……。
あの夜のことを………。