桜縁
「ち、違います!そんなんじゃありません!!」
慌てて否定する月。
「違うって何が?二人が口づけをしていたのは事実だし、それとも、あれは一時の気の迷いとでも言うの?」
あれは一方的に斎藤からされたことだ。
だが、自分が気を緩めていたのも事実だ。
こんな思いをし続けるならいっそう、斎藤を好きになった方がいいと思ったのだ。
その気の緩みを付かれた口づけ……。
あれをよりにもよって沖田に見られていたとは……。
返す言葉を失ってしまう。
「………とにかく、そんなんじゃありません。それに、あの時の事はお断りしました。」
「ふーん、別にそんなのどうでもいいけど。とりあえず君みたいなお子様は、ここで大人しくしててよ。ついて来ても邪魔だから。」
「どうしてですか?私は近藤さんから出陣命令を受けてるんです。それに私がついて行くのは沖田さんがいる隊ではありません。そんなこと沖田さんに言われる筋合いは………。」
「黙って少しは僕の言うことを聞いてよ!君に何が出来るっていうのさ!?」
「!」
沖田が鋭い目つきで月を睨みつけている。その目は明らかに真剣そのもので、この上なく怖い目をしていた。
「実戦経験もまんろくにないくせに、でしゃばるのもいい加減にしときなよ!」
確かに月は実戦経験が他の隊士に比べて少ない。だが、戦う分ではそれなりの実力をかねそろえている。
「べ、別に前に出て戦うわけではありません!私が行くのは、蛍さんを……。」
ーーーバンッ!
「!」
沖田は月の腕を掴み、壁に身体を押さえつけ月を挟み込む。
「そんなに僕の言うことが聞けないの?」
沖田の声色が変わる。
「沖田さん……?」
「なら、教えてあげるよ。実戦の…本当の戦いをね!」
「!」
ーーキーンッ!
一秒も間もない間に、二人の刃が一瞬のうちにぶつかり合い、甲高い音が狭い部屋に響く。
月の部屋は離れにあるため、誰もその音に気づくものがいない。
重なる刃と刃。
月は刀で沖田の刀を防ぐも、沖田が攻撃の隙を与える真もなく、次の攻撃に転じる。
月はそれを辛うじて防ぐが、受け止める刀が重い……。
ポタリ…。
と、月の額から汗が畳みに落ちる。
「よく、避けられたね。」
「馬鹿にしないで下さい。これでも、実戦経験はあるんです。」