桜縁
「確かにね。」
力を入れて受け止めている月の刀が、カタカタと震える。
沖田との力の差がありすぎるのだ。
沖田は明らかに手を抜いているが、その瞳の奥には冷たい光を宿らせていた。
二太刀目が月に襲い掛かる。
ーーギンッ!
「うっ…!」
その刀が重過ぎて思わず呻いてしまう。
「確かに月ちゃんは、他の隊士に比べれば、実戦経験もあるし剣の腕だってあるよ。それは僕も認めてあげるよ。」
「なら……。」
沖田がにこやかに微笑んだかと思うと、月に反論する余裕も与えずに、目を細め、それまでとは違う速さで、突きを繰り出してくる。
ーーキン!
ーーーーキンッ!!
高鳴る刃と刃。
猛攻を受け、月は必死に応戦するが、攻め込まれる一方で、あっという間に行き場を失ってしまう。
「ーーッ!!」
ーーガッ!
刀が弾かれ、ドスっと鈍い音を立てて、刃が畳みに突き刺さる。
スチャリと音と共に、月の首に沖田の刃がかかった。
「はぁはぁ……!」
「動かないでね。」
沖田は猛攻を繰り出していたにもかかわらず、息一つ乱すことなく、穏やかに微笑んでいた。
一歩でも動けば、首が飛んでしまうだろう。その目があまりにも冷酷で、月は肩で息をするのが精一杯だった。
「どう、これで少しは分かった?これが本当の実戦なら、月ちゃんはこれで死んでるよ。」
「……そんなの覚悟のうえです。刀を握った時から、殺すことも殺されることも、覚悟していました。」
月は新撰組に加わる前から、人を刺し殺している。それは沖田も知っていた。
月が隊士だったなら、男だったら、沖田もここまですることもなかっただろう。むしろ、人手に欲しいくらいだ。
「そうだね。なら、いっそうのこと僕の刀で死ぬ?」
「!」
「死を厭わないんでしょ?なら、殺されても文句は言えないよね?」
月の首に刃を当てながら、にこりと笑う沖田。
まるで、月なんていつ死んでもいいと言われているみたいで、喪失感に襲われる。
月は唇を噛み締めていた。
「勝手に死なれても、僕が困るんだけどね。」
とか言いつつも、月の首筋に冷たい刃を突き付けたままだ。
月は俯いたまま黙っている。
「月ちゃんは多少剣の腕があっても、経験不足でいきなり本戦なんて無謀だよ。」