桜縁
「どうしました?そんな暗い顔をして。また、沖田君にでも意地悪されましたか?」
月が暗い顔をする時は決まって、沖田が絡んでくる。
もう、皆の間では定番のことになってるのかもしれない。
「いいえ、別になんでもありません。」
「そうですか?おや、その首はどうしたのですか?」
「え?首……?」
言われた辺りの首筋を摩ると、少し腫れていた。
傷こそないものの、そこに刃が当てられていたことを思い出す。
ーー月ちゃんに何が出来るの?
沖田の言葉が頭の中でこだまする。
山南には何もないと言ったものの、色々ありすぎてつい黙り込んでしまう。
「…………。」
「やはり、何かあったようですね。……ついていらっしゃい。」
「………。」
山南に言われるがままに、月は黙ってついて行った。
ついて行った先は縁側だった。
そこに二人で座り、夜空を見上げる。
ふと、横にいる山南を見ると、さっきまで着ていたはずの隊服を着ていない。
「……隊服、脱がれたんですね。」
何気にそんなことを尋ねていた。
「ええ、ここに残るのなら、隊服を着る必要もありませんから。」
万が一に備えて、屯所襲撃も警戒していたが、新撰組の屯所を襲撃しようなどという馬鹿はそうそういない。
いたとしても、未然に防ぐことが出来る。
つまり、隊服を着るほどの事ではないということだ。
「そうです。久しぶりにお月見でもいたしましょうか。今日は満月で風情もある。」
唐突に山南がそう切り出した。
今は気分を変えていたい。月は素直に山南の提案を受け入れた。
満月が上空の真ん中にぼんやりと浮かぶ。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
山南からお茶を差し出され、それを飲んで大きく一息を尽く。
なんだか、こうしていると少しは落ち着いた気分になれる。
「いい月ですね。」
「ええ。」
二人で月を見上げる。
……今頃、沖田達はどうしているのだろうか……。
頭の中ではそればかりが気になっていた。
「山南さんは、最近の調子はいかがですか?」
話題を出すように月が尋ねた。
山南の腕は今だ治らずにいる。隊務こそは出来ないが、会議などには出席し、その頭脳となっていることが多いが、浮かない顔をしている時ため、少し気になっていた。