桜縁
山南は自虐的な笑みを浮かべる。
「どうですかね……。左腕は寝たきりですし、刀も握れません。もう、総長としては駄目かもしれませんね。」
「山南さん……。」
「君や山崎君にも随分と世話をかけましたが、どんなに治療法を探しても、私の腕を完治させることは難しいようです。ましてや、刀を握って戦うことなど……。」
山南は寝たきりになった左腕を逆の手で握りしめる。
「長州には、これまでに知られていない薬があるそうですが、もしかしたら……それを使えば、治るかもしれませんね。」
山南は苦し紛れの笑みを浮かべて笑う。
相当追い詰められているようだ。
長州にあるといわれる謎の薬……。
もしかしたら、その薬で山南の腕を治すことが出来るかもしれない。あくまで可能性しかないが、上手くいけばその情報も手に入るかもしれないのだ。
「……見つかるといいですね。」
「ええ。見つかるといいです。」
少しだけ表情が和らいだように思えたが、やはり元気がない。
「あの、山南さん。山南さんは笛は吹けますか?」
「笛ですか?」
「はい。吹けますか?」
「言っている意味が分かりませんが、笛なら多摩にいた頃に、習ったことがあるので吹けますよ。」
「なら、ちょっと待ってて下さい。」
月は自分の部屋へと戻り扇子を取ると、沖田の部屋へも入り、引き出しから仕舞われていた笛を取りだし、山南の元へと戻った。
「はい、これ。」
月は沖田の笛を山南に差し出す。
山南は不思議そうにそれを受け取る。
「これは……また、上等な笛ですね。」
「会津藩邸にいた頃に沖田さんが使っていた笛なんです。それと対になるのが、この扇子です。」
月は扇子を取り出し山南に見せる。
「それでよく二人で、曲を作って遊んでいました。」
「それはまた、危険なことをしたものですね。よく、見つかりませんでしたね。」
「はい、本当に……。」
目を細めて懐かしそうに微笑む月。
「それで、その曲とはどういったものなんですか?」
「身分違いの恋をした、悲しい男女の唄です。」
「これはまた、珍しいものを作りましたね。」
「はい…。その二人は身分違いながらも恋をして、結ばれることを夢見ていましたが、結局は結ばれることなく、夢で終わってしまうものなんです。」
悲しくて切ない恋愛物語……。