桜縁
今の沖田と月を表しているようだ。
「もしかして、その唄とはこの曲のことですか?」
山南は思い出したように、音色を奏でる。
それはまさしく、沖田が吹いていたのと同じ曲であった。
「すごい……。どこでその曲を?」
「沖田君から聞きました。月さんと一緒に作ったと。」
「そうですか。なら、一曲お願いします。」
月は山南が奏でる音色に合わせて舞を踊り出す。
左、右と扇子を見流し、両手を広げて桜の花びらが散るよいにゆっくりと舞う。
扇子を引き立てるように、揺るぎない凛とした弧を描き、そっと風を掬い上げる。
優美に空に放つと、扇子をひらりと羽ばたかせ、両手を緩やかに引き寄せて止め、空を仰いだ。
新撰組に戻ってから忙しくなり、大分舞ってなかったが、身を任せるように月は舞を舞い続けた……。
曲が終わると、月の動きも止まった。
「いや、見事でしたよ月さん。」
山南がニコニコと笑っていた。
「皆さんには内緒ですよ?」
「それにしても、実に見事でしたよ。まるで本当に物語に出てくる人のようでした。」
「山南さんも上手でしたよ。」
「いや、月さんの舞に比べたら私の演奏は……。」
「いいえ、山南は上手でした。私は元々は芸妓なので、自然と身体がついてくるんですよ。」
「沖田君が天性の剣士であるなら、月さんは天性の舞手かもしれませんね。」
そう言うと、山南にいつもの笑顔が戻っていた。それが嬉しく感じられる。
「ありがとう月さん。」
そう言ってもう一度、にこりと笑った。
ーー月と山南の間に、和やかな空気が包んだ時のことだった。
山崎から報告との、慌ただしい声と共に月と山南の耳に届いた。
新撰組の長い一夜はまだ終わっていなかった………。
調査の結果、本命は土方達が行った四国屋ではなく、近藤達少数部隊が向かった池田屋だった。
どうやら見誤ったようだ。
「なるほど…、私としたことがとんだ誤解をしていたようです。」
山南を始めとして、誰もがいつも使う池田屋に集まるとは思っていなかった。
と、なると少数部隊である近藤達が危険だ。今だ会津からの連絡はない。ここはなんとか土方達と連絡を取るしか他ない。
「新撰組は賭け事には弱いのかもしれませんね…。山崎君、君はすぐに土方君達にことのことを知らせて下さい。」