桜縁
「…………。」
月は境内の階段に座る。
どうやらここで待つ気のようだ。
「一人で大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。」
「そう、なら僕は戻るね。……あ、そうだ。」
沖田は何かを思い出したらしく歩みを止め、月の元へと引き返して来た。
「はい、これ。」
「?」
沖田は赤い紐でくくられた小さな笛を、月に差し出す。
「首からかけておきなよ。」
「で、でも……。」
「この笛を吹けば、危険を感じた鷹が、僕を呼びに来る。危険が迫った時はこれで呼んで欲しい。」
月はおずおずとそれに手を伸ばし受け取る。
「ありがとうございます……。」
沖田は月の手から笛を取ると、それを首にかける。
触れるか触れないかの距離感で、視線を泳がせてしまう月。
「これでよし!」
月の胸元で、笛が夕日の光で金色に輝く。
「何かあったら、必ずこの笛を吹くんだよ?」
「はい……。」
「じゃあ、僕は戻るね。」
月の返事を聞き満足した沖田は立ち上がり、境内の階段を下りて行く。
「沖田さん……!」
「?」
月は立ち上がり、沖田を呼び止めた。
「気をつけて……。」
沖田はニッコリと笑い、手を振りながら、行ってしまった。
月はその場に一人となった。
だが、二人が思っていた以上に、その危険は差し迫っていたことに、二人はまだ気づかずにいた………。
月はいつものように、社の中で休んでいた。
夜桜が風に揺れ、月が夜空を飾る。
月は境内の中から、それを横になりながら見つめていた。
ざぁ……、と音がし、桜の花びらが散って行く。
月は起き上がり、その場に座る。すると、一枚の花びらが月の手元に落ちて来た。
満開に咲く桜の花。本当ならば、史郎と一緒に見るはずだった。しかし、その史郎は何処にもいない。
月はおもむろにに立ち上がり、近くで咲く桜の木下へと来る。
見上げれば、桜の花が月の光に照らされて、白く輝いていた。
そっと目を閉じると、史朗の笑った顔が浮かび上がる。
月……、と名前を呼び、抱きしめてくれそうな気がする。
だが、目を開ければ現実に引き戻されるだけである。
月は境内へと引き返す。
すると、林の奥から足音が聞こえてくる。
「いたぞ!!あそこだ!」
「!?」
突然、大勢の男達が飛び出してくる。