桜縁




側に駆け寄り容態を確認する。額が切れていて、かなりの出血をしているが、命には別状なさそうだ。


と、その時。


一番奥の部屋から、沖田の声が聞こえて来る。


そして、女の声ともう一人の男の声。


月はゆっくりとその部屋に近づき、中の様子を伺う。


すると、そこにいたのは、浅葱色の羽織りを着て血まみれの沖田と、蛍、そして、桂が互いに刃を向けて睨み合っていた。


どうやら、一足先に沖田が見つけてしまったようだ。


「よりにもよって、こんな所で再会することになるなんて、運が悪いですね 桂さん?」


「まさか、こんなにも早く来るとは思わなかったよ。私達には今の新撰組に戦う理由がない。前の借りを返すつもりで、見逃してはもらえないかい?」


沖田の目の色が変わる。桂のことを探っているようなそんな目つきだ。


以前に、会津藩邸での長州と会津藩主討伐事件のおり、沖田と桂は月のこととかで、何度か会っている。


その時に作った借り。


それを今度は返してもらおうと言うのだ。


だが、沖田はその内容を知らなかった。


「何を言っているのか分からないんですけど?僕は別にあなたに借りを作った覚えはないんですけど。」


「本当にそうかい?」


「?」


「あの時、僕は君を取り押さえることが出来た。それをあえて逃がしたんだ。それだけでも充分な借りじゃないのかい?」


「それはそっちの都合でしょ?僕には関係ないね。逃げられないからって、人を試すのはやめてくれない?吐き気がするんだよね、そういうの。」


「君には何を言っても無駄か。吉田が死んだ今、僕達の計画は失敗だ。このまま大人しく帰るから、刀を納めてくれないかい?」


「駄目ですね。新撰組に立ち塞がる者は全て敵です。敵には死んでもらわないと困るんです。」


沖田が刀を構え直す。これ以上の交渉は難しい。


「……蛍様は、隙を見て逃げて下さい。私が彼を引き付けます。」


桂は後ろにいる蛍に伝える。


蛍だけは無事に逃がさなければならない。


「茶番はこれまで。悪いけど死んでもらうよ。」


沖田が勢いよく畳みを蹴る。


刃と刃が激しくぶかり合う。


沖田は物凄い速さで、突きを繰り出す。桂はそれを見てちゃんと受け流しているが、勢いで後方へと下がる。


「そう簡単にやられるわけにはいかない!」


桂は沖田の刀を交わし、沖田を蹴り飛ばす。
< 161 / 201 >

この作品をシェア

pagetop