桜縁
側に駆け寄り容態を確認する。額が切れていて、かなりの出血をしているが、命には別状なさそうだ。
と、その時。
一番奥の部屋から、沖田の声が聞こえて来る。
そして、女の声ともう一人の男の声。
月はゆっくりとその部屋に近づき、中の様子を伺う。
すると、そこにいたのは、浅葱色の羽織りを着て血まみれの沖田と、蛍、そして、桂が互いに刃を向けて睨み合っていた。
どうやら、一足先に沖田が見つけてしまったようだ。
「よりにもよって、こんな所で再会することになるなんて、運が悪いですね 桂さん?」
「まさか、こんなにも早く来るとは思わなかったよ。私達には今の新撰組に戦う理由がない。前の借りを返すつもりで、見逃してはもらえないかい?」
沖田の目の色が変わる。桂のことを探っているようなそんな目つきだ。
以前に、会津藩邸での長州と会津藩主討伐事件のおり、沖田と桂は月のこととかで、何度か会っている。
その時に作った借り。
それを今度は返してもらおうと言うのだ。
だが、沖田はその内容を知らなかった。
「何を言っているのか分からないんですけど?僕は別にあなたに借りを作った覚えはないんですけど。」
「本当にそうかい?」
「?」
「あの時、僕は君を取り押さえることが出来た。それをあえて逃がしたんだ。それだけでも充分な借りじゃないのかい?」
「それはそっちの都合でしょ?僕には関係ないね。逃げられないからって、人を試すのはやめてくれない?吐き気がするんだよね、そういうの。」
「君には何を言っても無駄か。吉田が死んだ今、僕達の計画は失敗だ。このまま大人しく帰るから、刀を納めてくれないかい?」
「駄目ですね。新撰組に立ち塞がる者は全て敵です。敵には死んでもらわないと困るんです。」
沖田が刀を構え直す。これ以上の交渉は難しい。
「……蛍様は、隙を見て逃げて下さい。私が彼を引き付けます。」
桂は後ろにいる蛍に伝える。
蛍だけは無事に逃がさなければならない。
「茶番はこれまで。悪いけど死んでもらうよ。」
沖田が勢いよく畳みを蹴る。
刃と刃が激しくぶかり合う。
沖田は物凄い速さで、突きを繰り出す。桂はそれを見てちゃんと受け流しているが、勢いで後方へと下がる。
「そう簡単にやられるわけにはいかない!」
桂は沖田の刀を交わし、沖田を蹴り飛ばす。