桜縁
「!」
沖田が後方へと飛ばされ、追い撃ちをかけるように桂が襲い掛かる。
「くっ…!……ゴホッ!ゴホッ!!」
桂の刀を受け止めながら、突然、沖田が激しく咳込み出す。
その隙を狙うかのように、蛍が出口へと走り出す。
その目は、切なそうな色を浮かべていた。
「ゴホッ!ゴホッッ!!」
「……!」
沖田の口を押さえる手の指先の間から、真っ赤な液体が溢れ出る。
「けっこう効いたようですね?その様子だと?」
「……っ!」
不適そうに笑う桂。
あの沖田が圧されている。このままでは、桂にやられてしまうかもしれない。
逃げようとしていた蛍の足も、その貢献を見て止まっている。
飛び込むなら今だ。
月は勢いよく部屋の中へと飛び込み、桂に正面から斬りかかった。
「ぐっ…!」
月の刃が桂の腕を切り、桂が体制を崩す。
「沖田さん!」
「なんでここに!?……ゲホッ!ゲホッ!!」
激しく咳込む沖田。
これ以上戦わせるわけにはいない。
と、その時蛍が走り出す。
月は持っていた小刀で、蛍の足首を目掛けて放った。
「きゃあっ!」
蛍が地面に倒れ、痛みにもがく。
「蛍様!」
そのたった一瞬であった。それだけで、月には充分の隙であった。
「!」
月の刀が桂の首にあてがわれていた。
「月さん……!」
「ここまでです。観念して下さい。」
「やはり、あなたは侮れようのない女性ようですね。」
突然の登場にもかかわらず、一瞬にして戦況を変えてしまう。驚くべき戦闘能力を持った女だ。
結婚しようとしていた仲だったとはいえ、桂は月の腕前を甘く見ていたようだ。
「一度くらいは、私の味方になって欲しかった。」
状況を察し桂が持っていた刀を手放し、刀が地面に落ちた。
こうして、京を巻き込もうとした長州の寡作は失敗に終わり、新撰組の長い一夜が終わったのである。
新撰組は長州の過激派浪士二十数名を討ち取り、七人に手傷を負わせ、二人を人質に取った。
結果としては新撰組は目覚ましい成果を納めたと言えるが、その新撰組の被害も少なくはなかった。
隊士の一人が戦死。
二人が重傷を負った。
傷を見たところ二人は助からないだろう。
そして、永倉は手に負傷をおい、平助も額に傷を負って動けなくなっていた。