桜縁
そしてーー、
沖田は桂の攻撃を受け、あの後すぐに意識を失った。
もし、あのまま屯所に留まって報告を受けていたなら、こんなに冷静ではいられなかっただろう。
目覚めない彼をの髪を撫でる。
肌がヒンヤリとしていて冷たい。
「沖田さん…。」
こうして何度も名前を呼ぶが変えってくる返事はない。
もしかしたら、死んでるのではないかと思えるぐらい、固まって動かない。
桂と蛍は人質として、屯所へと連れて行かれることとなった。
沖田を見つめる蛍の目は、悲しく切なそうに見つめていた。しかし、月に対する目は酷く冷たかった。
突然、いなくなった上に、婚約者であった沖田と一緒にいたとなると、そんな態度を取られても仕方のないことだ。
その上、計画まで邪魔し結果的に捕虜にしてしまった。
恨まれても文句は言えない。
後に、この事件は【池田屋事変】として歴史に残されることとなる。
屯所に帰還すると、負傷者の手当てを行う。みんなそれぞれ傷の大小は違うが、命の別状もなく元気に叫んでいた。
もちろん、消毒だから痛いに決まっている。
月はある程度のことをすると、他の者に手当てを任せ、今だ目覚めない沖田の部屋へと向かう。
しかし、一夜が明けても沖田が目覚めることはなかった。
うだるい暑さもあり、沖田は沢山汗をかいて苦しそうに息をしていた。
こうしていると、当たり前であった現実が当たり前でないことに気づかされる。
【大切な者】を失う恐怖が、月に襲い掛かる。
月はそんな悪い考えを追い払うように、沖田を看病し続けた。
やがて夜が明け、朝日が差し込む。
「沖田さん……。」
つききっりで看病し続け、月にも疲労の色が見えはじめていた。
まるで死んだように眠る沖田。
はやく目覚めてほしい。
「沖田さん。」
もう何度目が分からないぐらい呼び続けた名前。
返ってこない返事。
「沖田さん…!」
しだいに堪えていた涙が溢れてくる。
お願い…。
目を覚まして欲しい。
また、いつものように意地悪を言って欲しい。
好きとか嫌いとか、言って困らせて欲しい。
いなくなったらどうしようという恐怖が沸き起こる。
当たり前のようにいた存在。
何度も沖田を傷つけ、酷い事を言って来た。
ようやくその存在の必要性に気づく。