桜縁




月には沖田が必要だ。


「早く起きてよ、沖田さん…!」


お願い……!


叶うならもう一度、彼に言いたい言葉がある。


沖田の声が聞きたい……!


聞きたいよ……!


「私ずっと側にいるから……。」


月は溢れる涙を堪えながら、懸命に沖田の看病をし続けた。







その想いと祈りが通じたのか、翌朝沖田がうっすらと目を覚ます。


沖田が倒れて五日目の朝のことだった。


「……。」


ぼんやりとした景色の中、しだいに意識がはっきりとしてくる。


そんな中、妙に身体の上が重くて温かい。


そっと見ると、月が沖田の上で眠っていた。



泣いていたのか、目元が赤くなっていた。


沖田はそっと月の髪に触れる。


柔らかい……。


愛おしむように沖田をゆっくりと月の頭を撫でた。


すると、ようやく月が目を覚ます。


「ん……。」


「月ちゃん…。」


声に反応するように月が沖田の顔を見た。


「おはよう…。」


その言葉を聞いた瞬間に、月の目から涙か溢れ出る。


沖田が目覚めている。


笑っている……!


それが嬉しくてたまらないのか、涙が溢れて止まらない。


「沖田さん……!」


そう名前を口にするのが精一杯だった。


沖田は月の頬に伝う涙を優しく拭い、不思議そうな顔をする。


「なんで、泣くの…?」


「だって……っ。」


「変だな…。月ちゃんが目の前にいるのに、なんだか実感がわかないや…。やっぱり夢かな。」


まだ寝ぼけているのか、沖田がクスクスと笑っていた。


いつもの沖田だ。


「こうして、触れているのに、それでも実感がわかないのですか?」


月は自分の頬にあてられた沖田の手に、自分の手を重ねた。


大きくて男らしい手が、優しく月の頬を包み込む。


「だって……、あんなに我が儘な月ちゃん、始めて見たのに……。意地悪しちゃって、嫌われちゃったはずなのに…。」


沖田の目にはあの時の月の顔が映っていた。


辛そうにしているくせに、変に意地っ張りで、それでも意思を絶対に曲げようとしない月。


なんとか諦めて欲しくて、ついあんなことをしてしまった。


恐怖で震える肩。


縋り付く小さな手。


怖さを感じさせないようにする眼差し。


全てが沖田の脳裏に焼き付いていた。


好きな女にあんなことをするなんて、男として最低だ…。
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