桜縁
なのに、その月が自分の傍にいて、泣いてくれているのだ。
こんな夢みたいな話しあるわけない。
「もう、口聞いてもらえないと思ってたのに……。」
「そんなこと気にしてたんですか?」
愛おしむように穏やかに笑う月。
そんなことあるわけがないのに…。
まったく困った人だ。
月は沖田が実感を持てるように、優しく沖田の頬に手を伸ばす。
「月ちゃん?」
驚いた顔をする沖田。
今だったら、もう一度言えるかもしれない。
ーーあなたが好きです。愛しています。
と…。
月はそう心中で思いながら、沖田が戻ってきてくれたことに感謝していた。
二人はしばらくの間、そうしてお互いの存在を確認しあった。
それから、沖田の意識もはっきりしたところで、肝心な物を思い出す。
山崎から沖田が目覚めたら、飲ませるようにと用意されていた薬があったのだ。
「沖田さん、薬用意したので飲んで下さい。」
「やだ。」
「えっ…?」
沖田は真っ向から拒否をし、月に背を向けてしまう。
「もう…、薬を飲まないと元気になりませんよ?」
「苦いから嫌だ。」
「なっ……!」
薬をそんな理由で断るとは……!
まったく、大きな子供である。
「そんなこと言わずに、起きて飲んで下さい!」
「嫌だ!」
「沖田さん……!」
月に一喝されようやく、沖田がこちらを向く。
「薬なんて飲まなくても大丈夫だよ。寝てれば自然と治るわけだし。」
「そんなんで治れば医者はいりません。」
「そんなの飲んだら、夢にまで出てきそうだしー、それに苦いのは月ちゃんの担当でしょ?」
「……。」
まず、訂正しておくが、薬を飲んだぐらいでそんな夢は見ない。
苦いの担当ということは、もしかしたら以前やっていた嫌いなもの交換の時のことを言っているに違いない。
あの時、確か沖田は葱は苦いから、とかの理由で月のお皿に山住にして葱を置いていたことがあった。
本当にどこまで子供なのだろうかと思うぐらいだ。
だが、それだけ苦いのは嫌いだということだ。
「私が薬を飲んでも意味がありません。言うこと聞いて、飲んで下さい。」
「嫌ー。」
「沖田さん!」
「……だったら、月ちゃんが飲ませてよ。僕今起きたばかりでだるいんだよねー。」