桜縁
そう言って絶対に薬を飲もうとしない沖田。
本来ならば、無理矢理にでも薬を飲ますところだが、今はなぜたがそんな気にはなれない。
ふて腐れて我が儘を言う沖田も、今になっては何よりも愛しかった、
月はぐいっと白湯と一緒に薬を口に含む。
「月ちゃん…?」
月の心づもりも知らずに、言われたとおりにする月を不思議そうに見つめる沖田。
月は意を決して、沖田の顔を逃さないように両手で掴むと、唇をそっと押し当てて沖田の口に薬を注いだ。
「ん……。」
驚いたように、沖田の喉が鳴った。
ゆっくりと零さないよう慎重に流して行く。
「………ん。」
沖田はじたいに目をつむって、素直に薬を受け入れた。
全て流し込むと、そっと沖田から身体を離した。
「沖田さんが飲ませて欲しいって言ったんですからね。」
にこりと笑う月。
沖田はまだ夢を見ているような表情で、ぼーと月の顔を見つめていた。そして、呆けたまま、唇に手を当てる。
やがて、沖田がぽつりと言う。
「おかわり。」
「え…?」
「沢山飲めば治りが早くなるかもしれない。」
ニヤリとわらう沖田。
その表情を見て、カーと顔が赤くなる。
「ぶ、分量ってものがありますから、駄目です!」
そう言って沖田から顔を逸らす月。
「もっと飲むからちょうだいよ。」
月の着物の裾を引っ張る沖田。
「駄目ったらダメです! だいたいから、苦いの嫌いだったんじゃないんですか?」
上から目線でちらりと沖田の方を見る。
「ケチ!」
「な、なんですって!」
「月ちゃんのケチ!」
「ケチとはなんですか!ケチとは…!」
「ケチケチケチ!月ちゃんのドケチ!!」
「ド…!」
ドケチだと~~~!?
ケチまで言われるのは分かるが、ドまで付けられてとは思ってもみなかった。
それとはよそに、沖田はムスッとした顔をして、少し赤い顔をしていた。
いじけているのか、そんな表情も愛しく思えてしまう。
沖田は顔を隠すようにして、そっぽをむいてしまった。
「うふふふっ…!」
それが可笑しくてつい笑ってしまう。
この分だとすぐに元気になるだろう。
「じゃあ、私は行きますから。ゆっくり休んでて下さいね。」
月が立ち上がろうとすると、着物の裾を摘まれる。
「……?」