桜縁
「僕が寝るまでていいから、そこにいて欲しい。」
「沖田さん?」
「眠るまででいいから、どこにも行かないで、僕の傍にいて。」
沖田は背を向けたままだが、その手には力がなく、ねだるようにしっかりと握られていた。
「……分かりました。少しの間だけですよ。」
そう言って月が腰を下ろすと、沖田は満足そうに、月の着物を掴んでいた手を、今度は月の手を握りしめる。
相変わらずそっぽ向いたままだが、口元が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
「これが夢だったなら、覚めないほうがいいな。」
夢じゃないよ……。
そう言いたかったがやめた。代わりに掛け布団を優しく深くかけた。
少しでも眠って欲しい。
その願いが通じたのか、やがて沖田はすぅと穏やかな寝息を立てていた。
月の手をしっかり握りしめたまま…。
月はその手をそっと離し、掛け布団の中に入れて、優しく沖田の髪を撫でる。
「私の元に帰って来てくれてありがとうございます、沖田さん。」
幸せそうに眠る沖田の横顔を見る。
今まで塞がることがなかった二人の溝が塞がっていく。
これまでに沢山のことがあったけど、沖田の傍にいられて、こんなに穏やかな気持ちになったことがない。
こんなにも愛しいと想ったことがない。
これから先何があるかは分からないけれど、それでも沖田の傍にいられれば、それだけで幸せを感じられるのだ。
月は目を細めて微笑みながら、愛しい人の髪を撫で続けた……。