桜縁
第七章
池田屋事件後、新撰組との戦いに敗れ、囚われの身となった過激派の主導力者、長州藩の姫『高杉蛍』と長州の重役である『桂小五郎』は、後に会津藩邸に捕われ、処刑を余儀なくされることとなった。
これの連絡を受けた長州藩は二人の身柄を引き渡すよう会津藩に要求したが、謀反の罪として会津はそれに応じなかった。
そんな中、長州の密偵が牢獄に捕われており、桂は脱出するためにその密偵と自分をすり替え、藩邸を脱出するという前代未聞の賭けに出る。
それは運よく成功し、密偵は桂と間違われ処刑された。
残すは長州の姫である蛍だけとなったが、姫を殺せば、長州が敵に回る。戦うのはいいが、せっかく手に入れた長州の餌をみすみす殺すのはもったいない、ということで蛍の処刑は取りやめとなった。
その代わりに、いつぞやの会津藩主が計画していた婚約の話しが持ち上がる。
蛍を懐柔して長州藩の情報を聞きだし、長州を潰すというのだ。
そのためには、まず蛍の警戒を解かねばならない。
それで会津藩は新撰組に命令を出し、蛍と沖田の婚約を復活させることを告げた。
幕命に新撰組が断る権利はない。
こうして蛍は沖田の嫁として、人質として新撰組へやって来たのである。
蛍にしてみれば、沖田も月も裏切り者で敵でしかない。そんなに簡単に落とせる相手でもないのだ。
一応、新撰組雄一の女性ということで、新撰組の小姓である月が彼女の世話役に当たることになった。
相手は姫であるから、それなりの対応をしなければならないらしい。
かつては主だった蛍との対面。敵として刃を向けたが、今は客人として迎え入れるしなかない。
薄暗い牢屋へ山崎と一緒に入って行く。
蛍は足を怪我していたが、命に別状はない。
「姫様…。」
牢屋にいる蛍に声をかける。
「お前は……!」
「今、出して差し上げますので、お待ち下さい。」
軽く会釈をし牢屋の鍵を開ける。
「どうぞ、こちらへ。」
「敵の挨拶など受けたくない!」
月が差し出した手を跳ね退け、鋭い目つきで月を睨みつける蛍。
それだけ恨みは深いということだ。
蛍を傷つけただけに何も言い返せない月。
そこへ山崎が入って来る。
「あなたは新撰組の人間ではない。ましてや会津の人間でもないのだ。ここにいる以上は我々に従ってもらいます。」
山崎は蛍の脇を抱え起こす。