桜縁
「相当怖がらせちゃったみたいだね……。ごめん。」
申し訳なさそうに謝る沖田。
「あ、謝らないで下さい……!悪いのは私の方なんですから……!」
すると、沖田は月に手を差し延べてくる。
「立てる?」
「はい……。」
沖田の手を取り立ち上がる。お互いの姿を見れば、返り血で着物や顔が真っ赤に染まっていた。
「怪我の方は大丈夫なの?」
「ええ、かすり傷ですから。」
「かすり傷でも、ちゃんと手当てをした方がいい。この先に川があるから、そこで手当てをしよう。」
「はい。」
月は沖田に連れられ、近くの河原へとやって来た。
川の水が月明かりでキラキラと光輝いていた。
沖田は川の水で自分の手ぬぐいを濡らし、月にそれを渡す。
「はい。」
「ありがとうございます。」
月はそれで傷口を拭う。出血は既に止まっており、骨も健も異常がなく、見た目ほど傷も深くない。
月が傷口を洗っている間に、沖田は自分の着物を脱いで洗っていた。
「………。」
ついそれに見とれてしまう月。
「………なに?」
「いえ、別に……。」
慌てて顔を逸らす月。
「貸して。」
沖田は月の手から手ぬぐいを取ると、傷口を確かめるように優しく拭いていく。
沖田のたくましい身体が、目にちらついてしまい、変に緊張してしまう月。
沖田はそんな月とは関係なしに、手ぬぐいを引き裂き、月の腕に巻いていく。
「はい、これでもういいよ。」
「ありがとうございます。」
巻かれた腕を押さえ、顔を逸らす月。
沖田は水に浸けていた着物を絞り、それを乾かしもせずに羽織る。
それを見て、慌てて月は沖田の側に寄る。
「沖田さん…!?何をやってるんですか!濡れたまま着たら、風邪を引きますよ?!」
「これくらい大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃありません!脱いで下さい…!」
月は無理矢理沖田から着物を脱がせる。
「な、何をするのさ……?!」
「乾かすんです!」
「乾かすって言っても、何処で乾かすのさ……?」
「それは………!」
そこまで言って、言葉が詰まってしまう月。勢いで言ってしまったが、乾かす場所なんてこの辺りにあるはずもなく、戸惑ってしまう。
だが、沖田にこのまま濡れた物を着せるわけにもいかない。
「………社で乾かします。」
「えっ……!」